筑摩選書<br> 乱歩とモダン東京 ――通俗長編の戦略と方法

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筑摩選書
乱歩とモダン東京 ――通俗長編の戦略と方法

  • 著者名:藤井淑禎【著】
  • 価格 ¥1,485(本体¥1,350)
  • 筑摩書房(2021/07発売)
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  • ISBN:9784480017277

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内容説明

江戸川乱歩の作品は、戦前の同時代においては「通俗長編」で圧倒的な人気を集めた。『蜘蛛男』に始まる『黒蜥蝪』『魔術師』『吸血鬼』『人間豹』『黄金仮面』のような怪人対名探偵明智小五郎の冒険活劇である。そこには乱歩の密かな戦略があった。大衆読者のあこがれをかきたてるような1930年代のモダン東京の華やかな部分を活写し、見事に作品展開に生かしたのである。これまで研究されてこなかった通俗長編の中に、大衆の心をつかむ仕掛けとしての大東京の描写を読みといていく。

目次

第1章 通俗長編と『探偵小説四十年』
通俗長編への低評価
『探偵小説四十年』の成り立ち
『探偵小説四十年』の執筆時期問題
自己言及ものの真偽問題
第2章 あこがれの文化アパート
明智の住まい変遷史
開化アパートと文化アパート
お茶の水の文化アパート
アパートの歴史
描かれた開化アパート
〈あこがれ〉の的としての開化アパート
第3章 帝都復興と昭和通り
都市改造の動き
道路改良の歴史
昭和通り視察記
四四米幅の大道路
岩本町交差点
大正通り
大正通り沿い
両国橋周辺
『蜘蛛男』
昭和通りと大正通り
第4章 京浜国道のカーチェイス
京浜国道の改修
行詰れる京浜国道
『蜘蛛男』の京浜国道
自動車の時代
『黄金仮面』と京浜国道
京浜国道と乱歩
第5章 遊園地の時代──鶴見遊園と花月園
『蜘蛛男』の鶴見遊園
パノラマ館
花月園の歴史
遊園地ブーム
子供中心の暮らし
『地獄風景』と『パノラマ島綺譚』
第6章 巨大ランドマークの迷路──国技館
モダン東京高層建築物事情
国技館の歴史
国技館の異様な外観
国技館の迷路構造
迷路性への着目
床下の迷路
もう一つのトレードマーク
報知新聞と相撲
第7章 プチホテルの愉楽
車町への転居
車町の悪環境
高台のホテル
張ホテルの魅力
『緑衣の鬼』
『影男』
荷風と山形ホテル
第8章 モダン文化住宅の新妻
明智と文代の結婚
はつらつとした文代像
龍土町の文化住宅
文化住宅の歴史
郊外としての龍土町
第9章 大東京の郊外
大東京の誕生
境界意識
郊外願望
『人間豹』の郊外
西池袋への転居
曲馬団の公演地
第10章 〈近代家族〉の誕生
郊外の発展
家族像の変遷
「我子のしつけ方」
乱歩家の家族像
『探偵小説四十年』中の家族写真
明智の場合
第11章 戦略としての土蔵
蔵の中からという趣向
戦略としての土蔵の起源
幻影の城主
書斎・書庫としての土蔵
近代における土蔵改良史
震災後のモダン土蔵
第12章 乱歩邸が乱歩のものとなるまで
県知事の別宅
坂家の人々
西巣鴨町と「乱歩邸」
坂家のその後
転居当時の「乱歩邸」
乱歩と坂輔男
あとがき

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

パトラッシュ

55
少年探偵団シリーズを卒業後、図書館の大人向け書棚にあった江戸川乱歩の通俗長編を読み耽った。残酷な連続殺人、血で血を洗う復讐や欲望、女の苦痛と悲鳴などを初めて教えられたが、明智小五郎と犯罪者が戦いを繰り広げたのが戦争と高度成長で破壊される戦前の東京とは意識しなかった。明智が結婚後にアパートから一戸建てに転居し、関東大震災後に整備された道路や建物をいち早く作中に登場させ読者の心を掴もうとする苦心が浮かび上がる。さらに乱歩邸の土蔵や建築の由来を解き明かすなど、乱歩好きにはたまらないマニアックさを満載した好著だ。2021/04/26

犬養三千代

11
ジャコビアン様式。 明晰な文章で「乱歩」と「明智小五郎」を描いている。住まいや町並みの写真多数で良かった。 東京の地理に疎いので、頭の中と地図で再現する。 このような本にまた巡り会いたい。2022/03/27

bapaksejahtera

11
近代文学研究家による乱歩論。纏まりよく読み易い。冒頭乱歩が改定を重ねつつ自己の作品の評価記述(「探偵小説四十年」等)から大衆文学作品及びその作家としての(低)評価についてわずかに述べられているが、副題からしてももう少し膨らませてほしいところである。とはいえ著作は震災以降市制拡張前後の東京の特に旧郡部を中心とした拡大と気風の変化を上手に捉え、読者の合致した作品群を作り上げた乱歩の感覚の鋭さを見事に分析提示する。洋風アパートの出現、震災復興と合わせた道路改良。旧市内郊外のプチホテル等々が作品と共に紹介される。2021/07/15

Inzaghico (Etsuko Oshita)

11
個人的にも興味があったのは第2章「あこがれの文化アパート」と第7章「プチホテルの愉楽」だ。乱歩や登場人物の明智が活躍した時代は、マンションはなくアパートだった。明智が住んでいた御茶ノ水の開化アパートのモデルは、1986年まで御茶ノ水と水道橋の間に残っていた文化アパートだという。映画等で今見ると、かえってモダンな感じがするのはなんでだろう。昔も〈あこがれ〉だったかもしれないが、今も往時を偲ぶ意味合いで〈あこがれ〉る。第7章に登場する「プチホテル」にも同じあこがれを抱いている。2021/05/22

そうたそ

10
★★★☆☆ 乱歩の作品の中でも、いわゆる"通俗長編"に分類されるものから、その当時の東京の風俗を読み解いていく一冊。乱歩の作品研究のような本は読んだことがあるが、こういったアプローチのものは新鮮。乱歩と東京を結びつけた研究本は他にも何冊かは刊行されているようで、そちらも読んでみたい。東京に土地勘のある人は、より楽しんで読めるはず。相当よく調べ込まれた一冊であり、乱歩の作品をミステリとして読んだことしかなかったが、当時の東京を知ることができる読み物でもあるのだと実感。2025/01/01

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