内容説明
西洋近代において世俗化された二大領域──教育と医療。本書はこのうち医療について、宗教から世俗へと政治の実権や人びとの価値観が移っていくなかで近代医療が「神聖化」された過去、そうして覇権を握った近代医療が相対化の渦に巻き込まれ「脱神聖化」に晒されている現在を、主にフランスの文脈において物語る。
目次
序 論
医療理性批判
共和国の聖域としての医療
医療の世俗化
医療の聖域としての病院
生の公共サーヴィスとしての病院
第I部 医療の神聖化と脱神聖化──歴史社会学の観点から
第1章 医療の神聖化──フランスにおけるライシテの裏面
医療の政治的重要性
医療と教育への信頼と信仰
危機に瀕する医療制度への信仰
医療制度の創設(一八〇三年)
ライシテ化の第一段階
医療化の狙い(一八〇四年)
人類学的断絶と二つのフランスの争い
宗教から医療へ──移行と葛藤
第2章 医療の勝利とライシテの確立──「白衣の男たち」の君臨
医師は「慰めの嘘」をつく
延命か痛みの緩和か
ライシテ化の第二段階
パストゥール──医療の勝利に貢献した化学者
魔術化された世俗化
ライシテ化と医療
医療と二つの権力
カトリック内部の刷新と医療の優位
包括的な医療化のユートピア
第3章 医師と女性──医療教権主義の実態
医療の恩恵を受ける女性
修道女と女性看護従事者
修道女の活動がもたらした医療化
修道女と病院のライシテ
修道女と看護婦
羞恥心に関する論争
女性は医師になれるか
教権的機能、父権的ファルス
一九六〇~七〇年代の変化
第4章 勝ち誇る聖職者から不確実な聖職者へ
マイケル・バリントの神学的医療観
自覚的な医療教権主義
反医療の潮流
医療と国家の分離を求める声
医療教権主義と反医療教権主義のはざまの患者たち
医療の複数化と新しい異議申し立て
生命倫理の転回
人類学的問題の刷新
尊厳死──良心の自由のための新たな闘い
第II部 医療理性の危機
第5章 医療──社会とその矛盾を映す鏡
社会の「危機」としての病院の「危機」
近代病院における理論と実践の矛盾
表象-価値-決定-行為の連続体
第6章 産業型社会の健康、ポスト産業型社会の健康
健康観の象徴的変化と具体的変化
病院における四つの健康の定義
医療の凡庸化と医療専門職の抵抗
病院の表象と新しい健康観──充実と自律
個人世界系の健康論
病院の危機の中心にある三種類の価値観の錯綜
第7章 医療と病院──幻想の劇場
病院の産業化
ドクター──別格の地位
医学の進歩という産業型社会の幻想
専門技術者の躍進と医師の象徴的抵抗
逆戻りのリスク──病院は貧困者を対象とする新封建型施療院へと向かうのか
病院とポスト産業型社会の規範──適応と抵抗
第8章 脱幻想化されてもなお共和主義的な医療のために
表象の変化が病院組織に与える影響
新しい病院ガバナンスの理念上の目的とイデオロギー的機能
病院ガバナンスをめぐる象徴的闘争
「個人世界系」健康新宗教の支配者と被支配者
「主体の政治学」の源泉としての個人世界主義の健康観
医療を脱神聖化しつつ病院を救うには
あるべき病院の姿とは
結 論 新しい医療に向かって──聖の減退、生の増進
参考文献
補論1 コロナ禍における医療の脱神聖化と産業主義体制の危機(ラファエル・リオジエ)
補論2 一人の介護者という立場から見る現代フランスの医療(ジャン・ボベロ)
訳者あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nranjen