内容説明
世界遺産の登録対象は、かならずしも栄光の歴史を語る場所ばかりとは限りません。
そこには、戦争、災害、人身売買、虐殺、拷問、疾病をはじめとして、人類の悲劇の記憶も同時に数多く残されています。
世界遺産という仕組みは、もともと「人類が持つ普遍的な価値を後世に伝える」という精神に基づいて作られましたが、日本では地域活性化や観光振興の起爆剤のように誤解されています。
そこで、本書では「人類の悲しみの記憶を巡る旅」と定義される「ダークツーリズム」の方法論を用いて、世界遺産のなかでも、
とくに悲劇の場(負の世界遺産)として扱われている登録地を旅した文明論的な紀行集として展開していきます。
本書を通じて、世界遺産が持つ意味の核心や、ダークツーリズムという新しい旅のスタイルが持つ可能性に触れることができる1冊となります。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
rico
82
世界遺産。訪れたい魅力的な地は多いけど、西洋的な価値感のごり押しや政治的な思惑の結果、疑問符がつくものも。一方日本は「臭いものに蓋」とばかり、光と闇の両面あわせもつ歴史を受け入れる土壌が乏しいようで、登録をめぐり近隣諸国とのごたごたが絶えない。観光振興が登録の動機となることが多いが、著者は観光客にきていただき仕えるという構造的な差別性にも言及。コロナ明けインバウンドが復活したとき、日本は貧しい観光地になってる?スタンプラリー的に世界遺産をめぐり、SNSに写真をアップするだけでは見落とすものは多そうだ。 2022/01/23
Nobuko Hashimoto
29
この数年、負の遺産の保存や記憶の継承を自分の教育・研究テーマの一つにしているので、井出氏の書かれたものは学術系含め、目を通すようにしている。この本は世界遺産とダークツーリズムをテーマにした雑誌連載を基にしているとのことで、あまり掘り下げては書かれていない。分割して、本格的な論稿にしてもらえたら授業の素材にできるのになぁ、なんて思ったが、多角的な視点や細部の事実は勉強になった。特に、長崎・天草の潜伏キリシタン関連遺産の章の内容と、明治の産業遺産がそれに横入りするように世界遺産になったいきさつが興味深かった。2021/08/19
雲をみるひと
22
日本の世界遺産の在り方に一石を投じた内容。論点がわかりやすいことに加え具体的な事例もたくさん掲載されていて読ませる工夫がされていると思う。近年の世界遺産登録ルールに関する情報も押さえられおり、内容的にも網羅性が高いと思う。2024/05/28
真朝
22
知らない事が多すぎて頭がパーンてなりそうな感じです。何より楽しむより知識を増やす寄りの本だと思いました。それでも、世界遺産という言葉には何か麻薬みたいな物が私にはあるようで先へ先へと読み進める事が出来ました。この本の中で日本が臭いものには蓋をするという考え方を実施し良い面も都合が悪い面も両方同じ様に来た人に見せるというのが出来て無くて残念でした。それが日本に限らずある事は読み進めて分かりましたがやっぱり残念です。表も裏もきちんと把握したい。それが出来ているドイツは凄いなと思いました。2021/07/05
タカボー
9
ダークツーリズムの本で知られる著者。コロナ禍で旅行に行かなくなったので、紙上旅行感覚で読んだ。石見銀山のパンフレットには書かれない裏メニュー的な場所が衝撃的。観光地で必ずしも負の側面を全て見せる必要も無いかなとは思うけど。自己紹介でも、初対面の人に自分の黒歴史を話す人はいないのだし。ただ訪れる側が事前にそれを知ってると、より重層的な観光になるのは間違いない。ダークツーリズムに限らず、こんなご時勢なんで近場で歩きながら考えさせられる旅もいいなって思った。2021/06/20