内容説明
脳は推論するシステムだ! 知覚,認知,運動,思考,意識──それぞれの仕組みの解明は進んできたが,それらを統一的に説明する理論が長らく不在だった.神経科学者フリストンは新たに「能動的推論」を定義し,単一の「自由エネルギー原理」によって脳の多様な機能を説明する理論を提唱した.注目の理論を解説する初の入門書.
目次
まえがき┴脳の構造┴1 知 覚 脳は推論する┴2 注 意 信号の精度を操る┴3 運 動 制御理論の大転換┴4 意思決定 二つの価値のバランス┴5 感 情 内臓感覚の現れ┴6 好奇心と洞察 仮説を巡らす脳┴7 統合失調症と自閉症 精度制御との関わり┴8 認知発達と進化,意識 自由エネルギー原理の可能性┴あとがき┴参考文献┴付録 自由エネルギー原理の数理を垣間見る
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
105
2010年神経科学者フリストンが脳の情報処理の原理を説明する一般的理論「自由エネルギー理論」を提案した。この理論の特徴は、数式を使って具体的に記述されたものであり、その数式は巻末の付録にあるが個人的には理解不能。私たちの脳は、観測された感覚情報に基づき、最大事後確率推定によって外環境の状況を能動的に推論しているのである。この考えの画期的なところは、運動もまた感覚信号の予測だと考えることである。この理論では統合失調症は感覚減衰の障害であり、自閉症は感覚信号の精度が高いため予測誤差の精度が低いと説明される。2022/11/26
榊原 香織
54
フリストンの自由エネルギー原理。これで人間の感情(なんと内臓が関係する)、知覚、行動などの解釈が大幅に変わるらしい。 難しい。数式出てくると頭が拒否する。2024/05/24
禿童子
29
著者の一人である乾敏郎は1980年代後半に川人光男との共同研究による視覚認識モデルを提案した。二次元の網膜像から三次元構造を推論(ボトムアップ処理)、次に推定した構造から画像を生成して現実の網膜像との誤差を求め、その誤差が小さくなるように仮設となる構造を変更する(トップダウン処理)。このループを4~5回循環すると最終的な推定結果が得られる。この方法はフリストンの自由エネルギー原理による知覚モデルと本質的に同じである。シャノンサプライズやダイバージェンスなど専門用語に腰が引けるが、要約すれば上記になる。2023/08/19
特盛
26
評価3/5。脳に関心持ち出すこの頃。著者の講演を聞く機会と、読書会の為に読む。フリストンという研究者の革新的理論、自由エネルギー原理についての解説本。(フリストンは脳研究で重要なfMRIの解析に貢献)運動も知覚と同じ能動的推論の結果である。予測信号と感覚知覚の誤差が最小化する様に信念、脳内モデルを修正する。この理論は意識や感情やらも統一的に説明し革新的であると。ううむ。難解トラフであった。ベイズ推定とか、熱力学やら、記憶の彼方のシステム工学とかもう一度立ち返らないとふーん、と上滑りした理解に終わりそうだ。2024/06/12
ATS
20
環境や身体からの情報(感覚信号)と脳の推測(予測信号)の循環的相関によって知覚や運動を得ており、感覚と予測に誤差がある場合は想定(信念)を更新したり身体状況を変化させることで対応している。統合失調症や自閉症は誤差を修正することが困難なことで生じている疾患であり統失は感覚信号が、自閉症は予測信号の精度が低いとのこと。信号のコントロールにはドーパミンが影響している。本書はもっと平易に語れると思う。学者によくある難解さがなんともじれったい。『嫌われる勇気』みたいにプロに代筆してもらったらいい気がする。2023/12/06