内容説明
バスク文学の新星による珠玉のデビュー作
著者と同名の語り手は、バスクの中心都市ビルバオから、講演する予定のニューヨークへ向けて飛行機で旅立つ。心に浮かんでは消えていく、さまざまな思い出や記憶……祖父の船の名前をめぐる謎。スペイン内戦に翻弄されたバスクの画家アウレリオ・アルテタと、ピカソの《ゲルニカ》にまつわる秘話。漁師として世界各地の海を渡り歩いた父や叔父たちのこと。移民や亡命者たちのささやかな人生。新たな家族への思い。そして今書いている小説のこと。無数に繰り返されていく連想の働きによって、それぞれのエピソードがまるで漁網の目のように編み合わされていく。
本書はスペイン国民小説賞を受賞、国際的にも注目され、これまでスペイン国内外の14の言語に翻訳された。失われゆく過去を見送りながら、新たな世界へと船出していく、バスク文学の旗手による珠玉の処女小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
115
バスクの港町で育った語り手(著者らしき者)が祖父と父親を回想する物語。穏やかで洗練された文章が好みの作品だった。NYへのフライトの中、幾つもの断片的な記憶が連鎖しながら駆け巡る。その様子は慈しみと共に不安げでもあった。内戦時に体制側へ付いた祖父、不法漁で拿捕された父、それは人生の過ちだったのか。しかし家族の年輪を辿り、本当でも嘘でも大事なのは物語そのものを心で感じることだと気付き、自然体で生きた彼らを受け入れる。語り手が息子に向けた詩は彼が父親として見せる姿の覚悟が定まったものだと思う。素直に胸に沁みた。2021/02/26
アキ
93
バスク語で書かれた文学作品。書き出しの2文「魚と樹は似ている。どちらも輪を持っている。」から引き込まれる。主人公の作家はキルメン・ウリベ。つまり著者自身。彼が生まれたオンダロアでの思い出、ニューヨークへの飛行機の上で小説の題材にしようと集めた資料を読みながら連想すること、漁師であった祖父、過去について多くを語らなかった父についての記憶など次から次へと物語が連なる。ビルバオ美術館でアウレリオ・アルテタの描いた<巡礼祭>は1917年頃建築家リカルド・バスティダの依頼で描かれた壁画。とてもいい小説に巡り合えた。2021/04/26
どんぐり
78
バスク出身の作家ウリベの処女作。ビルバオ‐ニューヨーク間の空の旅。ビルバオから海岸線を飛び、内陸に向かい、海へ向かう飛行機。そこで出会った乗客のことや、三世代の家族の断片的なエピソードを語り出す作家。オートフィクションだ。最初はメキシコに亡命したバスクの画家アウレリオ・アルテタから始まる。アルテタが依頼を断りピカソが描くことになった《ゲルニカ》。バスクとゲルニカ、ビルバオとアルテタの逸話。眼下の海を目にした機上の作家は、漁師であった父や叔父たちのことを語り出す。→2023/11/22
nobi
64
のどかな中世がそのまま残っているイメージのあったバスク地方。その地方の「つらい出来事」は何も知らなかった。ナチスの無差別爆撃を受けたゲルニカがその一都市であることもバスク語がフランコ独裁時代に禁止されたことも過激な独立運動も。診察後、祖父が家に帰りたがらず母を美術館に連れて行ったこと、海で落とした結婚指輪の行く末、家族の乗る漁船の難破を目撃する話、80年前船でNYへと向かう聡明な少年の日記、謝辞に記載された名前は個人名だけで70を超える。そのくっきりとした話の一つ一つからバスクに生きる人たちの姿が現れる。2022/06/04
hiroizm
23
バスク出身の著者の現代の様子と、著者の曽祖父からの家族や関係者のエピソードがコラージュされた不思議味の随筆文学。単純な感動ファミリーヒストリーではなく、19世紀から今世紀にわたる「市井の人々が見た波乱の現代史」的な構成がクール。バスクというと独立派のテロ事件から頑迷で排外的というイメージがあったが、この本はむしろ世界観が広くて良い意味で裏切られた。スペイン内戦や大戦時の逸話も印象的だが、漁師の父が漁をしていた英国北海の島々、バスクの建築家の息子14歳時の1930年代米国旅行日記のエピソードもかなり好み。 2022/07/03
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