内容説明
▼井筒俊彦英文著作翻訳コレクションの第一弾。
▼『Lao tsu』(2001年)として歿後刊行された井筒俊彦による『老子道徳経』の英訳遺稿を日本語訳に翻訳する。
▼代表的英文著作Sufism and Taoismを中心に、井筒東洋哲学において特別な存在でありつづけた老子とその思想。老子哲学への井筒独自の神秘主義的な解釈が表われた英訳を忠実に日本語に翻訳。原文と訓読文を補い、訳者による解説、索引を附す。
▼老子その人と『道徳経』についてきわめて明快、簡潔に解説しつつ、独自の老子哲学観も提示する序文つき。
▼伝統的な『道徳経』解釈に向き合い忠実に言葉を選びながら、井筒は、語り手の老子を「永遠なる道」に同一化した人物と捉え、そこに流れる一貫した強力な思想を読みとる。これまでにない『老子道徳経』を読むことができる一冊。
目次
序 老子と『道徳経』
道経(第一章 ―― 第三十七章)
徳経(第三十八章 ―― 第八十一章)
訳者解説
訳者あとがき
索 引
感想・レビュー
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bapaksejahtera
6
井筒のテヘラン学究生活は10年に及んだ。折からの馬王堆墳墓での老子帛書発掘に誘引されイラン研究者と開始した老子会読は老子道徳経の英訳とペルシア語訳を齎した。これらはイラン革命によって当時出版されることはなかったが、本編はその英文稿の和訳である。井筒は「スーフィズムと道教」の他ユダヤ教のカバラー、プロティノスの流出論、仏性論(如来蔵)等に強い関心を示し著書も多い。この道徳経訳にも瞑想家としての道教の趣が色濃く伺われる。今回この老子読解については、中公の小川環樹本を読み返しつつ理解に努めた。2020/09/15
roughfractus02
5
漢字の画を呪術面から捉えると、「道」は首を掲げて行進する場所という解釈となる(白川静)。一方、漢字を漢字圏外の言語に翻訳すると、画は削ぎ落ち他言語と通じる意味に対応させる必要が出てくる。『老子道徳経』を英訳した著者はさらに進んで「道」を意味を超えて世界中に散在する神秘主義にある無分節の実在と捉えた。この観点で、本書は表題通り「道」と道徳を一つとし(The Way and its Virtue)、従来の分節的自己と異なる無分節の自己という超越的な設定をする。この自己と一体である時空は「無為自然」と呼ばれる。2021/01/30
Kota
1
井筒俊彦の英訳をさらに邦訳した二重訳だが、読みやすい。まず巻頭の序文がいい。老子とは自我を失った人の持つ実存的意識であり、自然の創造性と調和した名無き<自己>であり、それが一人称というかたちで姿を現している、と井筒節全開(笑) 本文も素晴らしく、「もし人々を統治しようとするならば、言葉づかいの点で、彼らに対して自分自身を低くしなければならない」などは、今の政治家全員に毎朝復唱させたい(笑) 最大の魅力は形而上的言説。「道」(という言葉)によって示されうるような道は、永遠の<道>ではない--シビれる(笑)2019/02/03