内容説明
科学技術が早急に対応すべき社会問題となった現在、科学思想史は〈科学政治学〉へ変貌しつつある。しかし、科学技術を社会がどう捉えるかは経済・文化・思想が輻輳する多層的な問題であり、科学思想史家がなすべきなのは、個々の研究を通じその輻輳した問題構制を明らかすることである。科学思想史の現代的可能性を改めて問う一書。
目次
第1章 〈科学思想史〉の哲学 [金森修]
1 〈科学思想史〉の揺動と拡散
2 〈嚮導科学史〉と〈他性の科学史〉
第2章 発生生物学の黎明─ヴィルヘルム・ルー試論[佐藤恵子]
1 はじめに
2 ルー以前の発生理論の展開
3 思想的土壌としての形態学
4 自然選択の原理の射程
5 発生機構学
6 発生機構学の行方
第3章 数学と社会改革のユートピア─ビュフォンの道徳算術からコンドルセの社会数学まで[隠岐さや香]
1 一八世紀の人間/社会科学と数学の応用
2 ダランベールの数学観とビュフォンの道徳算術
3 コンドルセの社会数学と認識論的調停─統治のための科学へ
4 おわりに
第4章 啓蒙と迷妄─『百科全書』の科学項目に見る〈誤謬理論〉の歴史[井田尚]
1 はじめに
2 「体系」の精神と「方法」の精神
3 『百科全書』の歴史叙述
4 言語に起因する誤謬
5 科学論争と誤謬の相対性─炎症の解釈をめぐる機械論と生気論の競合
6 迷信が生んだ科学的誤謬─賢者の石と回春の神話
7 科学における支配的誤謬─医学と感応力(Influence)の理論
8 誤謬から真理へ─項目「種痘」と種痘をめぐる論争
9 科学から文学へ─『ダランベールの夢』と「生ける」メタファー
10 おわりに
第5章 ロバート・ボイルの化学─元素・原質と化学的粒子[吉本秀之]
1 はじめに
2 ボイルとは誰か?
3 元素概念の〈系譜学〉
4 ボイルの化学的世界
5 ボイル化学の射程
6 おわりに
第6章 デカルト派生理学と図像表象[本間栄男]
1 デカルト
2 ルネサンス生理学
3 ファン・ホーフランドゥ
4 レギウス
5 二つのデカルト『人間論』
6 クラーネン
7 おわりに
第7章 中世における占星術批判の系譜[山内志朗]
1 はじめに
2 知としての占星術
3 占星術批判の基本的枠組み
4 アラビアにおける占星術
5 トマス・アクィナスの占星術論
6 ニコル・オレームの占星術批判
7 おわりに
第8章 ギリシア医学における批判と論争[今井正浩]
1 はじめに
2 医学の存在根拠を問う─『技術論』の議論の射程
3 原因概念としての「自然」─『神聖病論』と『環境医学論』
4 人間の探究─ヒポクラテスの医学と同時代の哲学
5 結びにかえて─論争史という視点からのギリシア医学への接近
あとがき[金森修]
事項索引
人名索引
執筆者紹介