内容説明
研究倫理とは、臨床研究にまつわる倫理的問題を論じる新しい学問分野である。先端的な科学研究が臨床の場で使われるためには、倫理審査やインフォームド・コンセントといった具体的な手続きが不可欠である。私たちの社会で今まさに起きている問題を扱うこの分野の議論を、特に医学研究に焦点を絞って論じ、その重要性を明らかにする。
目次
はしがき
序章 なぜ研究倫理なのか
1 焦点としての「人を対象とする研究」
2 研究倫理の根本問題
3 学としての研究倫理
4 倫理というアプローチ
5 本書の構成
第一章 医療倫理から研究倫理へ――日米比較
1 研究と診療の混同
2 アメリカの医学研究規制システム
3 日本の医学研究規制システム
第二章 研究倫理の起源――六〇年代アメリカの政策形成
1 アメリカの研究規制政策
2 食品医薬品局の政策形成
3 確率化する医療と新たなリスクの分配構造
第三章 研究と診療の境界――七〇年代の理論モデル
1 全米委員会とベルモント・レポート
2 研究と診療を区別する理論モデル
3 革新的治療の位置づけ
第四章 臨床現場のジレンマ――ベルモント・レポート以後
1 革新的治療再考
2 「治療との誤解」の発見
3 臨床的均衡論とその批判
第五章 専門職論からの視点――アポリアを乗り越えるために
1 医学研究を監視するのは誰か
2 専門職複合体論
3 自己規制の不可避性
4 専門職と「開かれた自律」
終章 研究と診療の統合に向けて
1 研究倫理の歴史と現在
2 「私の患者」か「公共の健康」か
注
あとがき
文献
事項索引
人名索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さとし
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「研究」と「診療」の区別から端を発して、研究倫理についての論を展開しており、ランダム化比較試験という、研究と診療を原理的に切り離すような研究方法の誕生に注目している。現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンや治療薬の迅速な開発が求められており、研究倫理において、「公共の健康」を優先しようとするCOVID-19の強風が吹き荒れている。その強風に流され居直るのは許されないことと自覚し、「研究」と「診療」のあいだで、粘り強く考え続けることが重要だと主張したい。2020/06/25
もりたく
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研究倫理が「研究者と被験者」間の搾取制約のためにあり、「医師と患者」間の診療倫理と区別されていないことを問題の本質と捉え、本来研究目的と診療目的で分けられるべき倫理審査委員会やICが日本で混同されていることを指摘する。 RCTという研究手法の革命が「治療の延長線上にある臨床研究」わ根底から変えたことに驚き。FDAが警察官ではなくて科学者集団というのも納得。2018/09/15