内容説明
2020年に逝去した作家・古井由吉が、明治、大正、昭和の「東京」を描いた徳田秋聲、正宗白鳥、葛西善蔵、宇野浩二、嘉村磯多、谷崎潤一郎、永井荷風らの私小説作品をひもとき、浮遊する現代人の出自をたどる傑作長篇エッセイ。長らく入手困難となっていた名作を文芸文庫で。解説・松浦寿輝。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
hasegawa noboru
13
荷風、谷崎の両文豪は別として、専門家以外もう誰も手にしないんじゃないかな「ありのまま」を標榜した自然主義の大家たち、徳田秋聲、正宗白鳥、宇野浩二。破滅型の私小説作家、葛西善藏、嘉村磯多。それら明治大正昭和の遠い昔の東京を舞台にした小説を古井由吉とともに読み直すといってもひとつも読んでいないわけだけど、読んだ気にさせてくれるし、古井自身の小説を読んだような気にもなる。書いている今(バブルに浮かれ始めた80年代初期)と比べながら、昔を生きた主人公たちの諸生態をねっとりからみつくように掬い取り抽象化する文体!2021/06/25
qoop
9
江戸という共同体が壊れた後に登場したカオティックな東京人像に迫る意欲作。故郷に馴染まず東京の巷を求めた者、東京生まれで異彩を放ちつつも〈東京人〉といわれれば納得できる者、それぞれの人物像を明治〜大正期の私小説から引き出し、特殊例を積み重ねる中にいきなり著者自身も投入することで、評論が創作活動であり得る顕著な例として成立している。統一感がありつつ変転する読み応えがたまらない。2021/11/20
とりから
6
徳田秋聲や葛西善蔵らの私小説に始まり、永井荷風、谷崎潤一郎など“東京人”の物語から都市生活者の原型を訪ねる批評。ちょうど本郷あたりを歩いたばかりだったので、『黴』に描かれるような崖に埋もれた生活の有り様は直観できた。「安易の風」「濡れた火宅」といった美しい各章の表題は、そのまま東京人の古い遺伝子を表しているように思う。睦言も死も、笑いも、低く猥雑に響く。路傍で斃れた老婆の米を背負って歩いていった女の背中。それこそたぶん高度経済成長を促したもので、東京がもっている“生きねば”という昏い推進力なのである。2026/04/03
Gakio
2
随想などと言いつつ、単なる書評ではないかと宇野浩二や葛西善蔵嘉村礒多の師弟の紹介を受けていたら、「とりいそぎ略歴」でそれらの舞台だった東京が突然空襲で爆撃される様が、古井自身の実体験として回想される。家は燃えてなくなり、逃げる市井の人々の「逃げる足は速かった」。 その後は戦後を眺める永井荷風と谷崎に移るが、読む私はかつて東京が爆撃されたという歴史的事実に対する動揺がおさまらない。結局いつも戦後の現代文学作品を読むと、この歴史的事実にぶつかって悄然としてしまう。2024/08/19
十文字
2
大正昭和期の私小説家は東京をどう描いてきたのか。また、著者の古井由吉は東京をどう見てきたのか。最後に荷風と谷崎で締めているのがよかったし、たぶんこの随想の原点はこのふたりなのだろう。2022/01/19
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