内容説明
「虚実皮膜」の間を飛翔する花田清輝の精神の冒険――東洲斎写楽の役者絵についての精妙な分析にはじまり、「芸」という虚と実の「皮膜」の「遊び」から、「役者」という虚にして虚ならず実にして実ならざる追求者に話を展開し、沢村淀五郎の芸談だとする『四徳斎雑記』を補助線として、独自な精神を奔放に飛行させる、花田清輝の世界。転形期をしたたかに生きる、不撓不屈の諧謔の精神。常に精神の前衛でありつづけた著者の代表的作品。
感想・レビュー
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耳クソ
12
写楽・春章・四世団十郎の「遁世」を、重商主義的な(田沼意次的な)見方でも、政治的保守主義的な(中野三敏史観、あるいは松平定信の)見方でもなく、近松のいう「実と虚の皮膜の間」に散る「火花」を見いだし評価する、それ自体18世紀文化論であり全世界的な近世思想史論の真髄だろう。その「火花」とは第四章の芳村金四郎=遠山景元説に材をとった天保政治論、大塩平八郎(というか橋本忠兵衛)に終始冷ややかな第六章にも一貫している「おとしばなし」的感性──山師的な、あまりに山師的な無責任さの革命性に他ならない。2023/09/23