内容説明
店で注文ができない。電話に出るのが怖い。喋ろうとしてどもってしまい、変な人だと思われたくない……話したい言葉がはっきりあるのに、その通りに声が出てこない「吃音」。目に見えず理解されにくいことが当事者を孤独にし、時に自殺に追い込むほど苦しめる。自らも悩んだ著者が、当事者をはじめ家族や同僚、研究者、支援団体に取材を続け、問題に正面から向き合った魂のノンフィクション。(解説・重松清)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
75
人間である以上、誰でも病気になったり障碍を抱えたりする可能性があるのに、社会はそういった問題を個人の「自己責任」の名のもとに矮小化し、あるいはなかったことにしてしまう。その姿勢が他者への共感を弱め、差別につなげているように思えてならない。どんな問題でも他人事だと思わずに、苦しんでいる人の声に触れてみてほしい。まず知ることから始めてほしいと病者のひとりとして心から思う。2021/05/09
カブ
48
人前で上手くしゃべれない、電話は恐怖、レストランで食べたいものの注文が上手くできない。吃音は人から理解されにくく、心を閉ざしてしまうこともあって、自死された方もいらっしゃるのを知り、心を痛めた。当事者はもちろんその家族や、仕事先の環境を知るにつけ沢山の人の助けが必要だと感じた。2021/06/25
AICHAN
45
図書館本。自らも吃音(どもり)で、それがゆえに高校を中退し、吃音でもできる仕事として文筆業を選んだ著者が、吃音とはどういうものか、その(間違った)治療の歴史、現状などについて、自らの体験と数人の重度吃音者の体験談から語る。自分の気持ちをうまく相手に伝えられないもどかしさを私は少しわかる。私は小学校低学年まで人前に出るとしゃべることができなくなり、悲しくて泣いてしまう子だったのだ。今思うと緘黙症だったのかもしれない。吃音はそれ以上に苦しいものだと知って、“どもり”の人たちを見る目に変化が生じるだろうと思った2022/11/17
はな
42
吃音の苦しさをよく分かっていなかったのだと認識しました。小さい子で吃音がでていると、時間が経ってくれば落ち着く、指摘せずにそのままでと聞くことが多い。たしかに自然に落ち着くこともあればずっと尾を引くこともある。障がいとしてみるのかその人の個性と見るのか難しい。ただ今のわたしが出来るのは、知ることと知ろうとすることなのではないかなと感じました。2021/05/26
ゆきらぱ
40
吃音がこんなにメカニズムも治療法もわからないものだとは思わなかった。そもそも障害かも決まっていない。著者自身もそんな吃音により人生右往左往したからこそ書かれた本だ。そういえば私は中学生になった頃から授業中指されたりすると真っ赤になった。それを先生方が「赤面恐怖症だ」とからかい、帰りの電車の中から「どもり赤面あがり症直します」と書かれた怪しい手書きの看板を見て、これ全部治すべきもの?と怯えた。こちらは恐怖なんて感じないのに「恐怖症」と断じられてかえって恐怖が湧き上がる。あの「他者の介在」を思い出した。2021/05/04