内容説明
日本を訪れたドイツ軍人とある“侍”が熾烈な戦いを繰りひろげる「一九三九年の帝国ホテル」。北の大地で使命を負った女性たちの矜持と運命を活写する「レディ・フォックス」。芸に打ちこむあまり加速度的に心身を崩壊させる漫才師を描いた「終末芸人」など、洋の東西を問わず、昭和、平成、令和の百年をつらぬいて生き抜くひとびと=「われら」の人生模様を、『宝島』で直木賞を受賞した真藤順丈が凄まじい熱量で描きだす作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
184
真藤順丈、3作目です。直木賞受賞後、第一作ということで読みました。幻想短編集、直木賞受賞作「宝島」と比べると物足りないですが、オススメは『ダンデライオン&タイガーリリー』です。 https://tree-novel.com/works/episode/330eb5cdfc5a1d99ce0c5285c9aa6518.html2021/06/25
buchipanda3
102
短編集。異形コレクションに収録されていた作品が結構入っているため、雰囲気としてはその方向。濃いめで忌憚のない独特な味わいがあった。題材も様々で、戦争、アイヌ、配信、奇書など虚実を織り交ぜて自在に筆を揮るっている。中でも"お笑い芸人"ものがどれも印象に残った。著者はお笑い好きなのかな。「笑いの世紀」は戦時の演芸慰問団で満州へ行った異才の芸人の話。戦争とお笑いの生きざま。「ダンデライオン〜」は笑っちゃいけないときなんて世の中にはないって言葉が妙に残った。「終末芸人」はぶっ飛んでるけれどお笑いを感じた。2021/06/16
Bugsy Malone
88
常識も生活環境も移り変わるそれぞれの時代の中で生きた者達、愛する人に寄り添う者、或いは守る為に闘う者、人の眼には異端と映りながらも這いつくばってでも生き抜く者。デビュー以来著者の作品を読む度、感嘆する程の感性と繊細さに驚かされてきた。これまでの著作では諦念の先のしぶとさが異端への慈しみと共に描かれ、愛と勇気と優しさはしぶとく生き残った者たちの希望となった。収録されている10編はそれらの長編が凝縮されたかの様。どれもがとてもとても素晴らしい。2021/07/30
ヘラジカ
52
周囲の評価も高く、前々から気になっていた作家。本来なら代表作から読むべきかもしれないが、初めて触れる作家は短篇小説で入るのが好み。御誂え向きの本が発売されたので飛びついた。短篇と言えど作者の持っている広い展望が、物語をページ数以上に大きなものに見せている。一篇一篇の熱量が凄かった。いずれもボリューミーだがジャンルは意外と広い。歴史の転換点を舞台にしたものが多いのかと思いきや、後半はYouTuberを語り手にしたものや、不気味な幻想小説などもあり大変多彩だった。『血の湖』の雰囲気がすごく良かった。2021/04/23
いたろう
48
「宝島」で直木賞受賞後第1作。戦中戦後の話から、現代を舞台にしたコメディ、奇譚まで、バラエティに富んだ10編の短編集。中でも、第二次大戦を前にした1939年、帝国ホテルを舞台に、客室係が、最後の侍と呼ばれる男と一緒に、ナチス相手に大立ち回りを演じる「1939年の帝国ホテル」、戦争末期の1945年6月、北海道を舞台に、内地からやって来た男が、レディ・フォックスと呼ばれるアイヌの女傑と、米軍、ソ連軍の攻撃を受けながら、食料を内地に運ぼうとする「レディ・フォックス」は、短編ではもったいない、長編で読みたい作品。2021/06/05