内容説明
文学と医業という二足の草鞋を綱渡りのように穿いて四十余年。
総合病院を定年退職し、今は非常勤医師として働く著者が、近年の己を題材に編み上げた四篇。
「畔を歩く」:定年退職を機に、うつ病を発症してから負担の軽い健康診断担当になり、
時に肩身が狭い思いもしながらも、しかし生き延びるためには文筆を止める訳にはいかなかった日々を回想する。
おさまらぬ気持ちを、畔をしっかりと歩いて宥める。
「小屋を造る」:同年配の地元の男らと山から木を伐り出し、簡素な小屋を建て、焼酎で乾杯する。
「四股を踏む」:定年間際の診療で、超高齢の女性患者から、処女懐胎の体験談を聞く。
「小屋を燃す」:六年前に小屋を建てたのと同じメンバーで、老朽化した小屋を壊す。
といっても、二人の男は先に逝ってしまっていた。
解体跡で飲み食いを始めると、死んでいるはずの者たちが次々と現れる。
※この電子書籍は2018年3月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
piro
36
ほぼ実話と思われる私小説。幼くして母を亡くし祖母に育てられた幼少期、都落ちの様な地方の医大生活、死と向かい合う医療現場、そしてパニック障害・鬱病の発症…。壮絶な人生を歩んできた南木さんですが、その人生を振り返る様にして、手造りの小屋で仲間と焼酎を飲む姿は、全てを受け容れてゆっくりと死を待つかの様。南木さんらしい静謐な文章では無いものの、人の一生の重みを感じる一冊でした。アルフレッド・シスレーの絵画に魅了された件、私もかつてその名を知らなかったシスレーの絵に魅了された経験があるので、何だか嬉しかったです。2021/12/23
どぶねずみ
33
過去に『阿弥陀堂だより』を読んで気に入ったので、是非他作品も!と思って図書館の棚から手にしたもの。あとがきをチラ見した瞬間に、著者が本作を最後にすると衝撃の事実を知る。全てがいつまでも続くわけではないことぐらい、私だってわかっている。ここであえて宣言というのは、著者自身も執筆活動に終止符を打ちたいという希望なのだろうか。最後にするには惜しいけれど、本人が受け止めながら、これまでを振り返り、静かに田舎暮らしをされて、最期を迎えようとしているのが感じられてどこか寂しい。他の作品も読み尽くしていきたい。2022/04/17
ほう
28
パニック発作やうつを病んだ筆者の、回復過程を綴る文章に私自身が癒されていくような気がする。気負いもなく淡々と書かれていて静かな読み心地。2022/06/25
Nao Funasoko
21
単語と単語をこのように結んでゆくと小説になるのかと妙に納得。なかなか味わい深い作品だったのでいつか再読するかも。芥川賞作家なれど初読の作家でした。2021/04/26
風に吹かれて
19
2018(平成30)年刊。 「畔を歩く」、「四股を踏む」で、生きてきた歳月を俯瞰的に振り返り、体を動かすことで心身の調和を見出して今があることを書く。自身の生の一つの区切りを描いているようだ。 「小屋を造る」、「小屋を燃す」で近所の仲間との交友を描く。心を患いながらもようやくたどり着いた境地。すべてではないけど概ね読んだ「南木物語の終章」(「文庫版あとがきとしての独白」より)。 →2022/02/26