内容説明
師の臨終に立ち会い号泣し、奇禍に倒れた友の事故の様子を丹念に取材し記し、幽霊でも良いから夢に出てこいと弟子へ呼びかける。夏目漱石、芥川龍之介、鈴木三重吉ら一門の文学者から、親友宮城道雄、教え子、飼い猫クルツまで。哀惜をこめてその死を嘆き、思い出を綴る追悼文集。〈解説〉森まゆみ
(目次より)
Ⅰ
漱石先生臨終記/湖南の扇/亀鳴くや/花袋追慕/花袋忌の雨/寺田寅彦博士/御冥福を祈る/鈴木三重吉氏の事/四谷左門町/酒徒太宰治に手向く/黒い緋鯉/草平さんの幽霊/青葉しげれる/薤露蒿里の歌/舞台の幽霊/追悼句集
Ⅱ
朝雨/「臨時停車」より/東海道刈谷駅/「つはぶきの花」/宮城会演奏プログラム口上一束/ピールカマンチヤン/「新残夢三昧」より
Ⅲ
鷄蘇仏/破軍星/空中分解/アヂンコート/片山敏彦君
解説 森まゆみ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
63
漱石、芥川龍之介や漱石門下、そして宮城道雄。今は亡き人の面影が熟達の筆の元にありありと蘇ってくる。百鬼園先生というと頑固というイメージがあるのだけど、一見こわもてのその下には非常に厚い情が見え隠れしてそれが何とも言えない魅力となっている。普段はユーモアの中に溶け込んでいるけど、こういう風にまとめられるとそれがはっきりと表に出るなあ。内容は漱石の臨終の様子から自殺直前の芥川の様子、名品中の名品「東海道刈谷駅」に地震で亡くなった弟子を描く「アヂンコート」と名作揃い。久々に文章そのものを味わう読書でした。2021/03/11
たぬ
27
☆4.5 百閒さんは80過ぎまで存命だったからそのぶん親しい人とのつらいお別れもたくさんあったことでしょう。師の夏目漱石や木曜会の仲間、学友、教え子、飼い猫…。特に宮城道雄の死には多くの紙面が割かれています。今じゃ考えられない走行中の列車からの転落死。百閒さん悔しかっただろうな。その人との思い出話にフフッと笑いつつホロリ。2021/11/11
tsu55
17
恩師や、親友、教え子の死がどんなにショックが大きいか想像に難くないが、悲しみに暮れながらも細やかな観察を施し、誠実に筆を運んだ文章は美しく、心を打つものがある。2022/07/09
澤水月
15
深い面識ない尾崎士郎追悼で「仕方がない。古来死ななかつた人はゐない」と書くのは度肝、しかも10p読ませる。大震災で亡くし一度「長春香」に綴った女弟子を自身晩年に再度描く「アヂンコート」、読者の多くが抱いた「キスくらゐはしたらう」など下賤な問いを「旧友」にさせ問い詰める形で自分を納得させているか。芥川に「漱石先生の門下では、鈴木三重吉と君と僕だけだよ」と言われたのは余程嬉しかったのだな。代表的な短め追悼纏まるが「実説艸平記」など中編や随筆中に息をするように始まる追悼なども他に多い。読者広げるためにも新刊行を2022/05/24
駄目男
13
本書は漱石と、その門下の人たちの交流を描きながら、今は亡きそれらの人たちを、哀惜を込めて思い出を綴る追悼文集のようなものだが、自らの若かりし頃など思い出すと、寂しさもひとしおだろう。鈴木三重吉の霊前で思いもかけず号泣したこと。宮城道雄の突然の死には現場にも出向いて、その経緯を一冊の本にして上梓したりしている。門下以外でも田山花袋の死、数十年以わたって交流した人々を懐かしく語っている。また、明治42年6月の「六高校友会誌」には亡き友に対してこんな追悼文を寄せている。2022/07/26