内容説明
獅子文六の長編デビュー作で、魅力的な人物たちが恋とお金をめぐり繰り広げるラブコメディ「金色青春譜」他、「浮世酒場」「楽天公子」と雑誌『新青年』で発表された最初期の長編3作を収録。同時代の社会、風俗に〈恋〉〈仕事〉〈家族〉〈食〉を巧みに取り込み、誰もが楽しめる物語に仕立てる獅子文六の魅力が、ここに既に凝縮されている。その貴重な作品群が遂に文庫で甦る。
目次
金色青春譜
浮世酒場
楽天公子
出世作のころ
解説 浜田雄介
語句注記
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヨーイチ
32
こう云う括りとか、小作品の詰め合わせ本が出て来るってことは文六作品のストックも底が見えて来たのかなぁ。時系列は追わないが、ちくま文庫の「珈琲と恋愛」を手に取った頃は他社の文庫から色々と作品を探し出して漁った物だ。山田風太郎・明治物といい本シリーズといい、ちくま文庫偉い!と言っておこう。 解説にもあるが新聞小説デビュー前(先生によれば新聞から依頼が来れば喰えたらしい)かの新青年に掲載された作品とのこと。晩年に自分の作品を「滑稽小説」と規定していたらしい。続く2021/02/27
とみぃ
22
《自由に、ラクに、柔らかく》というのがゴルフ上達の要諦らしい。庶民は「とかく生活気分に支配されて、ガツガツ、コセコセするから、運動硬化し、球勢狂うの結果となる」とのこと。生活がガツガツ、コセコセするのは仕方ないとしても、心ぐらいは《自由に、ラクに、柔らかく》ありたいなあと、青空を見上げて思う。「青空」がこの本のキイワードかもしれないけど、当時の新風俗を取り入れながら、作品はどこまでもあっけらかんとしたユウモアを湛えている。端々に見られる反抗精神も、活劇に付きものの悪代官退治以上のものではない。快晴に快哉。2021/04/08
みつ
16
「獅子文六初期小説集」の副題通り、『悦ちゃん』で人気作家になる作品3篇を収める。才気に溢れ風俗を巧みに取り入れた作品であるが、特に前2作は、小説としては散漫な印象。最後の『楽天公子』は浮世離れした伯爵の恋愛物語で、このお気楽さは読んで楽しく後年の彼を予告する。当時は三原山での自殺が続き、東北で飢饉が発生し、ヒットラーはむしろ英雄と捉えられた時代(「バー・ヒットラー」まで登場する。p169。戯画とは言い切れないのでは)。谷崎の『春琴抄』への言及も、刊行間もない頃ならでは。一方「可哀そうだた惚れたってこと➡️2022/04/03
コトラ
14
「コーヒーと恋愛」「沙羅乙女」に続く獅子文六3作目読了。時代的に昭和を遡って来た感じ。現代から遠のいたぶんだけ文化、風俗が物珍しく、華族は働かないでもこんなに贅沢ができ、また急速に落ちぶれていったのか、など驚くことが多かった。著者の初期作品集で、文体的にも流行作家として名の確立した前2作に比べるとクセが強いように感じる。そんななか「楽天公子」は思いきり能天気な御曹司の恋物語を描いておりその後の作風に近い。これからも地道に著作を集めて、現代にはないレトロモダンな文學を楽しみ続けたい。2023/01/03
Kotaro Nagai
11
本日読了。獅子文六18冊目。昭和9年~11年に新青年に掲載された長編1作目から3作目を収録。第1作「金色青春譜」は紅葉の金色夜叉を、「浮世酒場」は式亭三馬の「浮世風呂」を下敷きに文六流に翻案したかのような作品。どちらも軽妙洒脱。当時の流行語などピンとこないが、脚注がある。昭和9年の新青年では同時に小栗の「黒死館」が連載されていたとのこと。新青年恐るべし。昭和9年といえば、山本周五郎は少年少女誌で冒険活劇を連載している。3作品の中では「楽天公子」が一番好きです。この作品で後のスタイルが出来上がっている。2021/02/26