内容説明
水俣病患者認定運動の最前線で闘った緒方は、なぜ、認定申請を取り下げ、加害者を赦したのか? 水俣病を「文明の罪」として背負い直した先に浮かび上がる真の救済を描いた伝説的名著。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
112
6歳で父が死んだ。網元で不知火海の魚(いを)を食べ、急性激症型で発病2ヶ月で死んだ。自身も発病した。17歳で家出をした。21歳で川本輝夫と水俣病患者の補償運動に参加した。そして32歳で狂った。それはチッソという実体のないものとの闘いで、チッソというのはもう一人の自分だったと気づいた時であった。和解とは金策による制度であり、仕組みでしかなかった。「人間の中で値段が付けられていないのは、おそらく屁とか魂しか残っとらんのじゃないかなあと。」自分の命の在り処とは「海山東泊」と答えた。緒方正人の講演・談話集。2023/02/23
アナーキー靴下
89
水俣病患者として闘い、タイトルの示す境地に至った緒方さんの講演・談話が収録されている。緒方さんの話にはしっかりとした芯があり、切実に迫るものがある。ページ数は少なく文も読みやすいが、もちろん軽い内容ではない。被害者は実質的被害だけでなく、乗り越えることまで強いられる。この境地にまで至らなければいけないのか、そのうえ終わりはないのか、と愕然とする。本書は水俣病の実体験を語るのみに留まらない。何度も繰り返されてきた人間社会の過ちをどのように受け止めるか、そしてどう生きるか、その限りない模索である。2022/05/15
ぐうぐう
37
衝撃的なタイトルだ。水俣病により父を亡くし、自身も患者である緒方正人が「チッソは私であった」と言うのだから。ただ、緒方がその境地に至るまでの道程を本書を読むことで知ると、タイトルは嘘ではないことがわかるし、タイトル以上の衝撃を受ける。チッソを憎み、闘争に燃え、しかし裁判という制度化された戦いの中で相手の姿が見えないことに憤り、消耗し、緒方の言う「狂い」の期間を経て、彼は「チッソは私であった」と悟るのだ。(つづく)2023/03/24
ykshzk(虎猫図案房)
27
憎い敵の中に自分の姿を見出してしまう。そういうことは、人生の中で一度ならずあることだと思う。でも、この著者の次元まで行くのは容易では無い。一時はダイナマイトで会社をぶっとばしてやろうとさえ思った相手を、いとおしく、また、一緒に焼酎でも飲もうやと思えるようにまでなる。その心の変化の描写は、何度でも読みたい。今の話題で言えば、酷いコントをやった人、それを放映した人、見て笑った人。そういう人々を育てた社会に住む我々。皆、同罪なのだ。目に見えている部分を断罪して問題は解決したからさぁ進もう。それが一番怖いのだ。 2021/07/23
まると
26
単行本は2001年刊。「水俣病が生んだ伝説的名著」という大仰な触れ込みに違わぬ、素晴らしい内容だった。6歳の時に父親の狂い死にを目の当たりにし、その仇を討とうと過激な活動を続けていた著者は、突然患者団体を離れ、認定申請も取り下げてしまう。そして、狂人のようになって考え抜いた揚げ句、加害者同様に近代化を享受してきた自分に気づき、「チッソは私である」という逆説的な結論に到達する。国や企業と対峙した時に直面する「責任の制度化」という核心を、明瞭な言葉で語り尽くしている。漁師であり、哲学者でもある、すごい人です。2021/02/20
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