内容説明
大手出版社を定年退職後、カルチャースクールで小説講座を持つ澤登志夫、69歳。
女性問題で妻子と別れて後も、仕事に私生活に精力的に生きてきた。
しかし、がんに侵されて余命いくばくもないことを知るとスクールを辞め、人生の終幕について準備を始める。
講座の教え子・26歳の宮島樹里は、自分の昏い記憶を認めてくれた澤を崇拝し、
傍にいることを望むが、澤はひとり冬の信州へ向かった。
澤は、最後まで自分らしく生きることができるのか。「ある方法」を決行することは可能なのか…。
プライド高く情熱的に生きてきた一人の男が、衝撃的な尊厳死を選び取るまでの内面が描きつくされ、
深い問いかけを読者に与える傑作長編。
解説・白石一文
※この電子書籍は2018年3月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あすなろ
89
久しぶりの小池氏作品。尊厳死がテーマ。自分らしく末期迄ありたく、自分らしく生きれ無くなれば自ずからその生を断ちたい。その為には…。そして、その終末へ向かう生の中で出逢ってしまった若き女性。その女性についても描く。僕も時折考える事がある。己が己らしく過ごせなくなったら自ら命を断つか否か。そんな事も含め、小池氏らしい描写に彩られながらも考えさせられる文学的作品。また、読書中の頭の片隅には、小池氏の夫である故藤田氏の事も浮かんできてしまうのである。2021/04/04
ふう
89
迷いながら手に取った本。新聞の土曜版で「月夜の森の梟」という連載文を読み、夫を見送った作者の思いに心打たれ、どんな小説を書くのだろうと怖々読み始めました。フィクションなので、もちろん夫の死を描いたものではないでしょうし、読んでいる間は作品のおもしろさにそんなことは忘れるほどでした。末期の癌に苦しむ男性。その苦しさを想像することは難しいけど、自分の死を演出することぐらいは許されてもいいのかもしれないと考えさせられる作品でした。2021/03/28
ゆみねこ
83
とても読み応えのある1冊でした。末期ガンで余命いくばくもない69歳の澤登志夫は自らの最期をとある計画に添って成し遂げるため、一人で冬の信州へ向かう。澤を慕う教え子・宮島樹里の人生も絡め、考えさせられました。2021/05/10
Shoji
45
これぞ小池真理子さんですね。大人の男と女の沙汰、そして死にまつわる物語。大人の男と女のお話を書かせたら天下一品ですね。面白かったです。そして何より、死にまつわるお話。「終末」というものについて、考えさせられる一冊でした。2021/03/30
カブ
44
定年退職後、小説講座の講師をしていた澤登志夫69歳。離婚して娘とも疎遠となり、孤独な日々。ガンで余命いくばくもないことを知ると、自分の最後にある計画を考え実行する。小説講座の生徒だった樹里が何とも気持ちが悪い。自分はいつ、どのように死ぬのだろう。2021/05/21