内容説明
政論家とは、眼前の政治に強い関心を抱きながらも、政治家としてではなく、あくまで批評家として、政治に携わろうとする人々を指す。章士ショウと張東ソンは、イギリスや日本の所論を参照しながら、中国の政治を運用するための詳細な制度を構想した。また、その言論活動は、多くの政論を執筆した当時の知識人に大きな啓発を与えるものだった。
目次
「現代中国地域研究叢書」刊行にあたって[天児慧]
序章 政論家,章士ショウと張東ソン
1.二人の人物の死
2.本書の課題──三つの着眼点
3.章士ショウと張東ソンの関係
4.先行研究
5.本書の構成
第1部 章士ショウの政治思想
第1章 イギリス型政治の希求──『民立報』における章士ショウの政治制度構想
はじめに
1.民国元年の政治制度構想
2.章士ショウの政治制度構想
3.「記者」の自覚
4.『民立報』からの離脱と『独立週報』の創刊
小結
第2章 「好同悪異」に抗する──『甲寅雑誌』における章士ショウの政治思想
はじめに
1.「君子」による政治──梁啓超の構想
2.「専制」批判と「政談」擁護──章士ショウの構想
3.梁啓超と章士ショウの相違点
4.「政理」の探求者
小結
第3章 議会政治への失望から職能代表制への希望へ──『聯業救国論』から見る章士ショウの転換
はじめに
1.『聯業救国論』の内容
2.グレアム・ウォーラスとの対論
3.橘樸による批評
4.「業治論」の提唱
5.政論家,章士ショウの退場
第2部 張東ソンの政治思想
第4章 政論家,張東ソンの始動
はじめに
1.内閣制の確立に向けて
2.「野心家」に抗する政治制度構想
3.政治制度構想に通底する意図
4.賢人の政治の提起
小結
第5章 社会主義とどう向き合うのか──中国社会主義論戦と張東ソン
はじめに
1.中国社会主義論戦の展開
2.張東ソンの社会主義論
3.「わが族類にあらず」──高一涵による批判
4.監視される監督者
5.「懐疑」と「討論」
小結
第6章 民主と独裁をめぐる論争における張東ソンの論理
はじめに
1.国難打開をめぐる議論
2.民主政治の修正
3.政治批評の必要
小結
第7章 政治を見つめる士──戦後中国における張東ソンの政治思想
はじめに
1.民主主義と士
2.搾取をいかに解決するのか
3.制限されうる自由と制限してはならない自由
小結
終章 政論家の矜持
1.本書の議論の整理
2.政論家,章士ショウと張東ソンの評価
補論 高一涵の思想形成──五四前後を中心に
はじめに
1.章士ショウと日本の著作の啓発
2.英文著作の読解
3.大正時期日本の思潮
小結
参考文献
あとがき
初出一覧
索引
著者略歴
森川裕貫(もりかわ ひろき)
1979年,福井県生まれ。日本学術振興会特別研究員PD。2012年,東京大学大学院人文社会研究科博士課程単位取得退学。東京大学博士(文学)。論文に,「『太平洋』雑誌と和平の追求──五四前後における国内秩序論と国際秩序論」『中国哲学研究』第24号,2009年11月,訳書に,アレクサンダー・ウッドサイド『ロスト・モダニティーズ──中国・ベトナム・朝鮮の科挙官僚制と現代世界』NTT出版,2013年(共訳),など。