内容説明
終戦から間もない降誕祭(クリスマス)前夜、焼け跡の残る横浜・中華街の片隅で、隻腕の男が他殺体となって見つかる。犯人と思しき女性は更に娼婦を殺したのち自らも崖に身を投げて、事件は終結したかに見えた。しかし、二十年以上の時を経て、奇妙な縁からひとりの小説家は、殺された隻腕の男が陸軍大尉で、才能あるピアニストでもあった事実を知る。戦争に音楽の道を断たれた男は、如何にして右腕を失い、名前を捨て、哀しき末路を辿ったのか。そして、遺された楽譜に仕組まれたメッセージとは──美しき暗号が戦時下の壮大な犯罪を浮かびあがらせる推理長編。/解説=米澤穂信
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
126
著者初期作。これは人の情念を強く感じさせるミステリだった。それをもたらす大胆な仕掛けに情趣溢れる文章、まさに連城節を堪能。実を言うとモヤモヤが残っている。でもそれ以上に作品を印象付けるものがあった。一つは暗号。解説の米澤さんも述べていたが難解。しかし解かれた時、答えよりもその奥にある複雑な心情が訴えかけてきた。もう一つは事件の核心。それを知った瞬間は、いやまさかと。だがじわじわとひょっとしたらに変貌。そう思わせる人というものに呆然と。読後、これらに心が揺れる中、冒頭の奇妙だが印象深い情景が頭の中を巡った。2021/02/23
KAZOO
102
再読です。以前読んだときは筋を追うのがせいぜいであまり文章を楽しまなかったのですが、今回は連城さんの素晴らしい文章を楽しみました。例えば、北陸から京都へ行く途中ですが、「それでも目を凝らすと日本海の海は墨色の薄衣の下に濃緑色を秘めている。・・・・時々、陽が雲を割って、幾条かの光の帯を垂らすが、それは海面まで届ききらず、空と海の境もつかぬまま水平線は霞んでいた。」目に浮かんできます。トリックは二重三重にもなっていてミステリーとしては最高水準です。2023/07/15
カノコ
45
終戦間もなく、安宿の一室で隻腕の男が殺されているのが見つかった。ピアニストとして将来を嘱望されながらも、戦争でその道を断たれた男が遺した楽譜に隠された暗号とは。暗号の解釈については正直ほぼ何を言っているかわからなかったが、戦争で運命を狂わされた人間たちの指を介して伝えられた “言葉” はあまりにも劇的。男が支払わされた代償と、女が背負った重すぎる罪に、度肝を抜かれた。こんなホワイダニット、見たことがない。通常では考えられないトリックや動機を成立させてしまう手腕の鮮やかさ、非凡さを堪能した。タイトルも絶妙。2021/05/30
geshi
36
焦土の東京に振る夾竹桃の花に始まり、一人のピアニストがなぜ音楽を捨てて戦地に赴いたのか・片腕を失くし名を変えてまで日本に戻ったのか・そしてなぜ殺されたのか?を辿る物語。もう一つの物語と思いがけない交錯をした時に一気に愛情の情念がドロドロとあふれ出てくるようだった。複雑な暗号は解読しようという気すら起こらないが、そこに込められた思いを知り、隠されていた犯罪が暴かれる大仕掛けに鳥肌が立つ。あまりにも大胆で、ストレートな著者の思いに揺さぶられ、今日も飛んでくる黄砂に思いを馳せてしまう。2021/02/27
シキモリ
27
終戦直後に殺害された隻腕のピアニストが遺した楽譜。時を経て、そこに秘められた暗号が解き明かされる時、驚愕の真相が浮かび上がる―。著者の長編作品を読むのはこれが初めて。楽譜アレルギーの私は暗号の解読を早々に諦め、筋読みに集中。音楽家の悲運な生涯を辿ると思いきや、第四章から一気に色合いが変わり、男女の三角関係を巡る真実が明かされていく。初期作とあってか、物語のスケール感と愛憎劇の狭小さがミスマッチな印象を受けるが、犯行動機への飛躍の仕方が実に独創的。戦争の悲惨さを訴える著者の痛烈なメッセージが込められた作品。2021/04/03
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