内容説明
過剰共感能力を生かし記憶翻訳者として働く珊瑚は、勤務先の〈九龍〉に持ち込まれた仮想空間コンテンツをきっかけに生活共同体〈みなもと〉を訪れる。そこで珊瑚を待っていたのは、自身の母親だと名乗る女性・都だった。すでに亡くなっていると思っていた“母”は精神的支柱として生活共同体をまとめる日々のなかで、過剰共感能力の異常発現ともいえる症状があらわれて苦しんでいた。珊瑚は原因を探るべく、都の記憶データに潜行するが……第5回創元SF短編賞受賞作「風牙」に始まる、記憶をめぐる傑作SFエンタテインメント連作集、第2弾。/【収録作】流水に刻む/みなもとに還る/虚ろの座/秋晴れの日に/あとがき/解説=香月祥宏※本書は、『風牙』(2018年10月刊行)を再編集・改題し、書下ろし2編を加えたものです。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シキモリ
28
上巻「いつか光になる」に続く分冊版の下巻。今作は珊瑚の生い立ちにスポットが当てられている。序盤から早くも涙腺が緩む「流水に刻む」に始まり、表題作「みなもとに還る」でミステリーの謎解きと家族愛のドラマを存分に味わう。その前日譚「虚ろの座」は前章の余韻を一気に覆す悲愴感に満ちているが、エピローグの「秋晴れの日に」が文字通り晴れやかな幕引きを飾る。近未来お仕事SFと心震わすヒューマンドラマが織りなす極上のハーモニー。私は全編涙なしに読めなかった。あとがきにて垣間見える著者の実直な人柄も好印象。大満足の一冊です。2021/02/27
みなみ
18
過剰共感能力を生かして記憶翻訳者として働く珊瑚を主人公としたSFシリーズの二作目。最後の短編である「秋晴れの日に」は穏やかなエピローグとなっていて、「虚ろの座」の恐ろしいラストを中和されているのを感じ、短編の順番は大事だと痛感。珊瑚の家族関係が明らかになってきたので、今後は父親に迫っていくのかな。2024/05/26
kochi
18
過剰共感能力による自己崩壊から九龍の創始者不二らに救われ、会社の仮想世界を支える記憶翻訳者として働く珊瑚は、脳梗塞で逝った仁科が残した一種のハッキング(少年の仮想人格による悪戯)に対処するが、彼らを嘲笑うかのように「ボーイ」は意味不明で神出鬼没の動きを見せる。仁科の過去を探った珊瑚の提案した対策は? 本シリーズは、今で言うメタバースを舞台にしているのだが、電脳空間の活劇を志向するのではなく、超能力者の悲劇と言うSFのオーソドックスな視点で珊瑚のルーツに切り込んでいく。次作ではいよいよ父親を攻めるのか?2022/11/29
Atsushi Kobayashi
16
残念ながら、こういう分野は自分は不得意みたいで、ちょっと付いていけなかったです。2021/05/06
Fondsaule
15
★★★★★ 過剰共感能力(能力と言っていいのかわからないが)を持つ珊瑚が主人公の短編集、第2弾。 「流水に刻む」 「みなもとに還る」 「虚ろの座」 「秋晴れの日に」 の4編。 短編ではあるが、まるで長編を読んだような、深い感動がある。 実態があるようでとても儚い”記憶”というものが題材だからだろうか。 「流水に刻む」とか大好きだ。2024/07/02