内容説明
不朽の名作「源氏物語」は実は未完であり、秘された最後の一帖は時の最高権力者を窮地に陥れる物語ではないか。生前の紫式部が存在を秘して没した「五十五帖」とは果たして……宮中の陰謀に物語が切り結ぶ時をスリリングに描き、多くの書評に取り上げられた昨年の第11回日経小説大賞受賞作『新・紫式部日記』には続編があった。「源氏物語」に残された最大の謎という大胆不敵なフィクションである。主人公は菅原孝標女(作中では、更級)。藤原道長から「五十五帖」の探索を命じられるが、同行を命じられるのが宮中に仕えていた紫式部の娘、賢子。田舎育ちで父から与えられる物語に耽溺して成長した更級と、物語づくりに忙しい母にかまってもらえなかった賢子が幻の「源氏物語」を探していく過程で、紫式部がどういう人間であったか、「源氏物語」はいったいどのような物語であったかが浮き彫りにされていく。豊かな学識から紡ぎ出された古典文学ミステリーの秀作である。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちょろこ
144
これまた面白い一冊。更級と賢子、この二人が藤原道長に命じられたのは源氏物語、幻の「五十五帖」の探索。女二人の冒険譚と紫式部の描いた謎にハラハラドキドキを味わいながら最後まで楽しめた。もちろん、ここにあの人物を…という絡みも前作同様、面白い。賢子が母、紫式部の想いを知ろうとする心もじんとくるし、この時代のままならない想いも改めて伝わってくる。五十五帖の終幕も、更級の決意も巧く着地しまとめてあり読後感も良かった。そしていつの時代も良くも悪くも人の心を動かすものの一つ、それが物語なんだなとしみじみ感じた。2021/06/22
初美マリン
105
五十五帖の謎というより、更級日記の孝標の娘、紫式部の娘賢子、道長の息子の成長物語だった。権力に対する人間の在り方と共に。2021/09/18
真理そら
69
紫式部の死後、表に出ていない源氏物語五十五帖には藤原道長にとって都合の悪いことが書かれているかもしれないと、これを手に入れたい道長に巻き込まれる菅原孝標とその娘、式部の娘・賢子、自分から巻き込まれる道長の明子腹の息子・能信。僧殺しの犯人にされてとらわれの身になっている菅原孝標を救うためにタイムリミット付きで五十五帖を探さなければならなくなった孝標の娘。式部と手紙のやり取りをしていた友達が信濃にいるらしいということで信濃に旅立つ孝標の娘と賢子と能信は信濃である人物に会う。ミステリー要素のある楽しい物語。2021/08/18
アルピニア
57
菅原孝標の娘である「更級」が父を助けるために紫式部の娘「賢子」と共に、紫式部が宮仕えを引いた後に執筆した「源氏物語五十五帖」を探すという設定の物語。藤原道長と修子内親王(一条天皇と中宮定子の長女)が何としても手に入れようとする「五十五帖」の内容とは・・・。このような物語を生み出す源氏物語の世界の懐の深さを感じる。賢子の抱える寂しさ、更級の草紙への思い、そして修子内親王の恩讐が胸にしみる。夏山さんの世界に浸り、行成や常盤の胸の内も聞いてみたくなった。これからどのような作品を生み出すのか楽しみな作家さんだ。2021/10/21
万葉語り
48
石山寺で高僧が殺され、父に着せられた濡れ衣を晴らすため菅原孝標女が藤原道長の命を受け、大弐三位とともに幻の源氏物語五十五帖を探す物語。清少納言や藤原行成も出てくる。更級まで旅をする何とも行動的な平安貴族の娘たちが、現代的で、これはこれで楽しめた。本当に存在するのならぜひ読んでみたいとも思った。2021-0292021/03/13