内容説明
タイの人気作家プラープダー・ユンの、日本オリジナル編集による短編集。2002年、29歳にしてタイの最も権威ある文学賞である「東南アジア文学賞」を受賞した『存在のあり得た可能性』を含め、タイで発表された初期の人気短編集などの中から12編を厳選し、宇戸清治氏が構成・翻訳した2007年の同名書籍の電子版です。どの作品にも実験的アイディアとタイ語の言葉遊びが散りばめられ、日本の日常にそのままあてはまるほどリアルでクールな視点もみずみずしく、読む者に不思議な読後感をもたらします。著名な父を持つがゆえに「親の七光り」と向き合わざるを得ない複雑な自我を描いた「バーラミー」や、手から紙片が滑り落ちてから、屈んでそれを拾うまでの間の長大な追憶「存在のあり得た可能性」など、その新鮮な構想力と、散弾銃のように続く濃密でピュアな言葉の連射は「文芸アート」とも言えるもの。2000年代東南アジアの文学の季節に萌芽した傑作短編集として長く愛されることでしょう。
目次
バーラミー
存在のあり得た可能性
あゆみは独り言を言ったことはない
重複する出来事
トンチャイの見方
肉の眼で
オタッキーな家族
消滅記念日
リビングの中の乳房
スペースを空けて書く人
母さん、雪をあげる
マルットは海を見つめる
著者あとがき
訳者あとがき
著者・訳者 紹介
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
三柴ゆよし
13
タイについてなにも知らない。ましてやタイの現代文学なんてものについての知識などあるはずもなく、本書がタイにおけるポストモダン文学の旗手によるものだと聞かされても、左様ですかと答えるしかなくて、なんとなれば自分はタイのモダンはおろかそれ以前すら知らないのである。本書に収められた最初の短篇「バーラミー」(「七光り」の意味だとか)の語り手は作家志望の青年。彼は香港旅行の途上、親父の威光を傘に着た、いけすかない青年(その名もプラープダー・ユン!)に出会い、そのゴーストライターとして作家デビューすることを決意する。2012/03/20
きゅー
8
タイの作家のプラープダー・ユンの短編集。ポストモダンという言葉を最近は聞かなくなったが、「バーラミー」などのいくつかの作品は、まさにポストモダンな小説だ。無名の作家志望の青年が金持ちの青年プラープダー・ユンと出会う。二人は秘密の取り交わしをし、青年はユンのゴーストライターとして小説を書く取り決めをする。一般的にイメージされるようなタイらしさは皆無。都会の喧騒、アイデンティティを追い求める若者、個人と集団との諍いといった現代的な問題に焦点が当てられている。彼らの物語は私たちの生活と地続きで、そこに障害はない2022/09/30
hyva
7
ちょっと変わった海外文学を読みたくて。この作家が変わっているのか、タイ文学というジャンルが変わっているのかわからないけど。とにかく不思議というか、シュールというか。雰囲気オシャレな短編集。現代文学という感じ。2019/03/03
balanco
2
実験的でモダンだと思いました。2015/12/20
riepinchos
0
タイの知識人、プラープダーユンの短編集。個人的には最初の話が好きだった。自分の小説を売り出すためにゴーストライターの道を選んだ男と、自分の名声を得たいために名前を貸すことを選んだ男。ゴーストライターの男は小説家としての実態を伴った自己を失い、名前を貸した男は小説に書かれた通りの作家像をなぞるように生きるしかなくなる。名声と実体、ふたつを別の人間に分割するとこうもややこしい人生になるのか。2021/06/10