内容説明
日本の探偵小説を牽引した二大巨頭、江戸川乱歩と横溝正史。ほぼ同時期にデビューした二人は、盟友として認め合い、生涯変わらぬ友情で結ばれた。それも作家同士というだけでなく、時に一方が編集者となって支えるという希有なつながりだ。この濃密な関係はどのように生まれ、育まれたのか──二人の足跡を辿りながら、数多の作品群を通して出版界の興亡のドラマをも描き出す、空前の対比評伝。
目次
はじめに
第一章 登場
第二章 飛躍
第三章 盟友
第四章 危機
幕間
第五章 再起
第六章 奇跡
第七章 復活
第八章 新星
第九章 落陽
第十章 不滅
あとがき
参考文献
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
geshi
31
乱歩と横溝の二人の、作家であり編集者であり友人でありライバルである関係性が太文字の強さ。日本の巨木が絡み合って大地に根差しているように見えてくる。出版界の栄枯盛衰と共に活躍し、戦争による探偵小説の危機を乗り越え、戦後の探偵小説ブームを作り上げる二大巨頭の歴史を一つの作品・出版社・雑誌まで調べられていて、徹底した取材(参考文献だけで7頁!)に裏打ちされた精緻さに感服。文学界に留まらずラジオ・テレビ・映画のエンタメ界全般に渡る影響の大きさを見るにつけ、この二人がいなければ日本はどうなっていたのか。2021/02/22
nishiyan
16
江戸川乱歩と横溝正史。日本ミステリー界を代表する二人の対比評伝を軸に戦前から戦後にかけての出版興亡史をも膨大な資料と調査を元に描いた本書。多くの版元が生まれては消えていったあの時代に上梓された二人の作品たちがどのように生まれたのか興味深く読んだ。そして一言では語れない複雑怪奇な彼らの関係性。戦後、探偵小説界を背負った乱歩と、故あって距離を置き、ただ創作に打ち込む横溝。対照的な二人だが今もこうしてたくさんの彼等の作品が読まれ、乱歩が遺したものによって多くの後進が育っていることを考えると感慨深い。良書。2021/03/04
kuchen
12
乱歩と横溝の交友、二人が活躍した時代の出版業界や推理小説の位置付けなどが描かれる。二人の関係が興味深いのは当然だが、出版社の興亡や探偵小説を渇望した人々の奮闘もおもしろい。正直なところ、二人の作品はさほど読んでいないのだが、敬意も込めて読んでみたい。2023/06/24
浅香山三郎
10
安藤礼二『光の曼陀羅』からの連想で、乱歩を取り上げる本書を読む。1年くらゐ積ん読になつてゐて、22年の年始に漸く読んだのである。書名の通り、江戸川乱歩と横溝正史を対比的に取り上げ、それに探偵小説と出版史を絡ませていく。本書の中に幾度か挿入される、両者の長篇連載の表を見ると、両者とも並行して3〜4本の作品を執筆してゐるのはザラで、その量産能力に驚くとともに、本格・変格・大衆化の夫々の面で、戦前期の探偵小説の勢ひがよく窺へる。戦後は、角川映画と横溝作品のブーム等、社会一般への推理小説の浸透を扱ふ。↓2022/01/05
さいと
6
乱歩の方がだいぶ古いイメージがあったが、横溝の方がデビューが早かったというのが意外だった。横溝は代表作の金田一シリーズが戦後に始まっているので、そういうイメージになったのだろう。二人の評伝のみならず、戦前戦後の出版業界の話としても読め、興味深く楽しめた。2022/02/01