内容説明
六十四歳の晩秋のある日、いつものように散歩に出かけようとして妻に止められ、そのまま緊急入院。
突然襲った脳内出血で、作家は生死をさまよう。
父の一大事に力を合わせる家族、励ましを得た文学作品、医師や同室の人々を見つめる、ゆるがぬ視線。
病を経て知る生きるよろこびを明るくユーモラスに描く、著者の転換期を示す闘病記。
生誕100年記念刊行。
目次
夏の重荷
杖
北風と靴
大部屋の人たち
Dデイ
作業療法室
同室の人
単行本あとがき
著者に代わって読者へ
解説 島田潤一郎
年譜
目次
夏の重荷
杖
北風と靴
大部屋の人たち
Dデイ
作業療法室
同室の人
単行本あとがき
著者に代わって読者へ
解説 島田潤一郎
年譜
著書目録
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
うた
9
天性のおしゃべり、話好き。脳溢血という、普通なら口を閉ざしてしまいそうな重いものだが、闘病のあいだまったく話足りなかったとでもいうように、筆勢がある。こんな元気な闘病記は初めて読んだ笑。同じ病で悩む人の背中を押してくれる愉快な本だろう。2021/03/06
Inzaghico (Etsuko Oshita)
7
冒頭の「夏の重荷」は、福原麟太郎の心臓病闘病記なのだが、昔の福原家のお手伝いさんがお見舞いに来てくれた、という話から福原家の飼い猫だったタマ(猫らしい名前だ)の話になり、福原と同じ心臓病を患ったアイゼンハワーが車椅子でゴルフをしたという話になり、と話が縦横無尽に広がっていって、最後に戻ってくる、いつもの庄野らしい締め方だ。話が海をまたぐのは当たり前、だが海外の話も大所高所の話ではなく、文人のよもやま話や家族の逸話などになる。それが実にさりげなくてうまい。2021/04/17
はるたろうQQ
1
著者が大病から再生を果たした第一作。ここから、自分を主人公にした晩年の作品群が作られる。ただ福原麟太郎「秋来ぬと」を読んでその内容を紹介したり、同じ病室の人々の人生を描いてもいて、それまでの小説との連続性もある。著者は自分の経験したことだけを書くので、行動範囲が狭まると同じようなエピソードや感想の繰り返しがあり、どの小説を読んでいるのか分からなくなる。子供が同じ遊びを飽きずに繰返す姿に似ている。晩年の作品群は「年年歳歳花相似 歳歳年年人不同」を小説として描いたと理解している。師伊東静雄の予言が成就された。2024/09/17
神野 羊
0
ご自身の闘病記を中心に書かれた短編集である。昭和60年のことだそう。発病や入院のくだりは身内でないものが読んでもまさに不幸中の幸いによって九死に一生を得た感がある。 転院のエピソードを読むと、今も昔も変わらず病院や医師というものにはなんとなく度し難い部分があるんだなぁと思わされる。あとは、淡々と書かれている日々の中にはここに書かれなかった壮絶な部分もあるのだろうな…と思った時、この作家のそれらを昇華させたうえでの描写力のすごさを改めて感じた。作家って見事だ。2023/11/08