講談社学術文庫<br> 異端審問

個数:1
紙書籍版価格
¥1,012
  • 電子書籍
  • Reader

講談社学術文庫
異端審問

  • 著者名:渡邊昌美【著】
  • 価格 ¥990(本体¥900)
  • 講談社(2021/02発売)
  • ポイント 9pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784065225455

ファイル: /

内容説明

――皇帝ジギスムントが宮中伯ルートヴィッヒに向かって命令する。「囚人を受け取り、よろしく異端者として扱え」。今度はルートヴィッヒがコンスタンツの帝国代官に向かって命令する。「我ら双方によって断罪されたる者としてこの者を受け取り、よろしく異端者として焼け」。――
 1415年に異端として裁かれた宗教改革の先駆者、ボヘミアのヤン・フス処刑の克明な描写にはじまる本書は、中世のヨーロッパで異端審問がどのようにして生まれ、そして制度として定着していったのかを、具体的なエピソードを丁寧に積み重ねながら、当時の人々の息遣いもあざやかに描き出す。法も手続きも無視して「すべて殺せ」という13世紀の異端狩りの熱狂から、ウンベルト・エーコの小説『薔薇の名前』にも登場した、世界で最も有名な異端審問官ベルナール・ギーによって組織化・マニュアル化された14世紀の冷徹無比な異端審問を経て、15世紀末スペインでの過酷な弾圧に至る、その道のりの背後には、いかなる時代精神が見いだせるのか。
 西洋中世史不朽の名著『異端カタリ派の研究』(岩波書店、1989年)の著者が、多彩な史料を駆使して知られざる中世世界への扉を開く!(原本:講談社現代新書、1996年)

【解説(轟木広太郎・ノートルダム清心女子大学准教授)より】
 本書は、一三、一四世紀における異端審問の成立と制度的確立の経緯を、およそ関連するすべての種類の史料を博引旁証しながら描き切った労作である。……ヨーロッパ中世という日本人にはどこか掴みどころのない、しかしそれでいて魅惑的な個性を放つ時代の雰囲気を初学者に感得させると同時に、このテーマに興味を持つ専門家にとってもいまだ探求のヒントを数多く掘り出すことのできる鉱脈たり続けていると思う。(本書「解説」より)

【本書の内容】
第一章 薪と硫黄の匂い――異端審問とは何か
第二章 剣と火と異端者――異端審問の誕生まで
第三章 異端審問創設の頃
第四章 異端審問の制度化
第五章 審問官ベルナール・ギー
第六章 裁かれる者たち
第七章 スペインの火刑台
あとがき
参考書目抄
解説「異端審問と交差する四つの歴史の道筋」(轟木広太郎)

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

パトラッシュ

58
スターリンのソ連、ナチスドイツ、文革期の中国など現代まで続いた容赦ない異端狩りを思えば、中世ヨーロッパで吹き荒れた異端審問は特定の宗教やイデオロギーを絶対視する人間の考え方や感覚が7百年過ぎてもほとんど進歩していない現実を突きつける。マニュアルに基づく官僚的な手続き、一審のみ弁護人抜き証拠無視の有罪が決定済みの裁判、残酷な処刑に情熱を傾ける審問官などキリストの名の下に行われた有様は、フライスラーやウルリヒら無法判決を乱発した独裁政権下の裁判官そのものだ。神が存在してもしなくても人は一切を許してしまうのか。2021/05/28

ゲオルギオ・ハーン

30
30年近く前に現代新書から出ていたため、学術文庫に移籍した少し珍しい経緯の一冊。異端審問と魔女裁判はあまり違いがないように見えるが、教会の教えを徹底させるという性質が強いのが異端審問であり、時代によって異端とするものが変わるというのは面白い指摘だった。というのも10世紀半ばに興ったカタリ派、ワルドー派はいずれも主旨としては清貧運動だったが教会批判に繋がる危惧があったため異端とされたが、12世紀に登場した同じく清貧を掲げるアッシジのフランチェスコは聖人とされ、彼が設立したフランチェスコ会は公認される。2022/04/06

宗次郎

12
今現在も場所をインターネット上に移して異端狩りは進行中なのかもしれない。特にコロナ禍にいたりたまったフラストレーションの解放のしどころをネットに求める人が増えている印象だ。2021/09/09

ふたば@気合いは、心を込めて準備中

9
何を持って異端とするのか、という大前提を知らずして読んではいけない内容。それでも、苛烈な異端者狩りに平和な時代の日本人は目を疑う。狂気のような異端狩りと、自らの信仰を守り、火刑さえ、信仰心を表す手段と考える異端者たちにも宗教と言うものの怖さを感じた。初期の余りにも激しい異端審問から、徐々に制度化されて行き虐殺のような異端狩りが落ち着いて行く過程には少し安心してしまった。2021/04/10

筑紫の國造

6
知らない事を知る、というのは楽しいものだが、これも面白い本だった。「異端審問」という名前となんとなくのイメージはあったのだけれど、こうしてきちんと体系立てた本を読んだのは初めて。初期の異端審問がむしろ審問官の暴走を生み出しがちで、かえって地域住民の恨みを買った、というのは意外だった。これでは、住民も異端の側に同情を寄せるだろう。苛烈な弾圧を受けながも清貧に生きる「異端」は、確かに原始的な宗教者の面影がある。そしてこの異端審問の形は、「狭隘なイデオロギーによる他者排除」という形で、20世紀でも猛威を振るった2021/07/07

外部のウェブサイトに移動します

よろしければ下記URLをクリックしてください。

https://bookmeter.com/books/17319061
  • ご注意事項