内容説明
テレビでは連日連夜「小泉首相が平壌を電撃訪問」のニュースが報じられていた。その直後、横浜の寿町の市営アパートで老女が殺された。伊丹夏生は、元陸上自衛隊員で、除隊後、カレン族の解放軍の傭兵として戦っていた。焼肉店を経営する朴昇一は、密かに伊丹と連絡を取り、彼の帰国をうながした。伊丹は朴から、寿町で殺された母親のことを話され、殺人の動機となった手紙を見せられた!?
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆみねこ
61
横浜・寿町で一人の在日の老女が殺害された。彼女が隠し持っていた一通の手紙には、何が書かれていたのか?闇に閉ざされた北の実情と、地上の楽園という言葉に騙されて帰還した人々。総連(この本の中では統連)の暗躍。登場人物が多いことと名前を認識するのに若干時間はかかりましたが、ページをめくる手を止められませんでした。読み応えのある1冊です。すべてを明らかにされる日が来たら良いのですが。2016/04/07
ナミのママ
59
表紙とタイトルどおり『北』を舞台にした、一通の手紙をめぐっての小説。これは読み応えありました。不勉強で韓国についても、在日についてもあまり知らず、一体どこまでがフィクションで、どの人物が実在するのかわからずでした。登場人物の多さと、氏名の覚えにくさにも苦戦しましたが、それを差し引いても面白かったです。鉄道や地名は図表を何度も見返しながら読みました。あまりにも悲惨な人々の暮らしに、ページをめくる手もとまりました。「知らない」というのは「恐怖」です。もっとこの国の現在を知りたいと思います。2016/03/16
ちょろこ
58
あの国の闇をもっと知りたくて手にとった、一冊。殺人事件と手紙、どうつながっていくのか、計画とは何なのか…序盤から引き込まれ、次第に眉間にしわが…。あの国の闇の部分…フィクションであって欲しいものがあの国の現実であって、ノンフィクションになって欲しい部分がフィクションであるのがつらかった。ああいう何かがおきれば、あの国の人々はもちろん、日本で家族の帰りを待っている人々、どれだけの人に笑顔がもどることだろう。2016/03/21
きさらぎ
48
この本を手に取った時、まず思ったのは…この表紙、大丈夫!? フィクションだけど、ところどころ現実の出来事とリンクしていて胸がざわつく。北朝鮮の内情が詳細で、軍の横暴で陰湿なやり方、圧政に息が詰まる思いだった。過酷な状況にありながらも家族の情を忘れない人たち。かの国では他に拠り所がないのだろう。将来に何の希望も持てず、ただその日を生き延びることだけを考える生活。革命を企てる人もいるのだろうが、あの国が変われる日が来るとは到底思えない。ラストの1行が胸に突き刺さった。怖ろしい国…2016/04/20
ミスターテリ―(飛雲)
35
「北朝鮮をこんなに貧しい国にしたのは、国民の生活など眼中になく権力にしがみつく金正日とその一族、それを支える一部の連中だー」脱北した在日の朝鮮人たちが、親族を殺された復讐のため金正日の暗殺を計画。現実の悲惨な北朝鮮の姿や、登場人物が実名で、背景にある小泉訪朝や韓国大統領暗殺未遂なども克明に描かれる。これは小説なのかノンフィクションなのか、全編、緊張感のあるストーリーで、まさに死と隣合わせの計画が進行する。ついにあの金正日の特別列車が龍川駅を通過・・こんな作品が普通に読めるということが驚きで信じられない。2023/08/18