内容説明
「私の一生の中で大連の昭和20年8月15日より青い空はない。生徒の前に先生が一列に並んでいた、異様な空気だった」、中国で迎えた終戦の記憶から極貧の美大生時代まで。夫婦の恐るべき実像から何の役にも立たないとわかっているけれど読まずにいられない本の話まで。「卵、産んじゃった」などの単行本未収録作を新たに加えた、愛と笑いがたっぷり詰まった極上エッセイ集。
目次
Ⅰ
薬はおいしい
お月さま
「問題があります」まで
青い空、白い歯
やかん
いつも読んでいた
母のこと、父のこと
本には近づくなよ
草ぼうぼう
黒いベスト
コッペパンと「マッコール」
下町の子どもたち
まるまる昭和
黒い心
あっしにはかかわりのない…家
先生と師匠
わりとそのへんに……
美しい人
年寄りは年寄りでいい
Ⅱ
大いなる母
いま、ここに居ない良寛
子どもと共に生きる目
何も知らない
心ときめきたる枕草子
書物素晴し 恋せよ乙女
本の始末
リルケびたり
『六本指の男』はどこにいる
ぎょっとする
空と草原と風だけなのに
何もなくても愛はある
光の中で
大きな目、小さな目
叫んでいない「叫び」
Ⅲ
北軽井沢、驚き喜びそしてタダ
幸せまみれ
役に立ちたい
わけがわからん
縄文人
おひなさま
どけどけペンペン草
喫茶店というものがあった
猫に小判
森羅万象
小林秀雄賞 受賞スピーチ
Ⅳ 単行本未収録エッセイ
解説
6球スーパー
私はダメな母親だった
屈強なおまわりさん
卵、産んじゃった
あとがき
解説 佐野さんは分かっている 長嶋有
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
115
佐野洋子さんと言えば、「100万回生きた猫」の作者で谷川俊太郎の元奥さん、この二つしか知らなかった。100万回…については、なるほどとは思うも感動せず。このエッセイに対してもそんな印象を持つ。身近にいると少ししんどいタイプの人だろうなあ。終戦直後の中国やロシアの人達についての描写で、この人は引き揚げ前の事をすごく根に持ってるのだと思った。戦争中に自分達のことを彼らがどう思っていたのかは書かないのだ。でも、佐野さんは黒い心をもっていると告白しているから、思った通りを書けばいいんだとそこだけ強くおもった2016/05/17
榊原 香織
70
エッセイ。 65位~死の前年(72歳)位までの。 面白いしキップも良いんだけど、晩年感漂う。 とにかく読書山ほど。何にもならなかった、て言ってるけど、そんなことない。こんな素敵なエッセイが書けるのだから。 あれ、アレキサンドリア4部作を古本屋で買った、て出てくる。こないだ読んだばかり。2021/09/24
金城 雅大(きんじょう まさひろ)
34
読んだそばから内容が抜けていくゆる感がたまらない。そうかと思いきや、たまに全てを達観したような含蓄あるお言葉が出てくるから、油断ならない。 「本を読んでも私は教養高くなるわけではない」「読書はまるでバックグラウンド・ミュージックのようだった」としきりに語る。だが、その境地にたどり着ける人はそう多くはないのではないだろうか。 読む前と読んだ後で、自分が(ほぼ)何も変わらない読書というのは、最近の自分にとってはなかなか珍しい。読みたくて一気に読んだ娯楽小説のような読後感にある種近かった。2019/10/03
慧の本箱
18
本書を手にしながら、なんでこんなに話に覚えがあるんだろう?以前手にした「神も仏もありませぬ」「役にたたない日々」の中身と同じ内容を書いてるのだろうかと・・・佐野さんごめんなさいお馬鹿は私でした。本書を2010/09/08に単行本で読了してました。情けなやです。2021/10/28
ソングライン
16
2000年代、作者が60才を越えてからのエッセイ集です。少女時代過ごした大連から、日本に引き揚げたてきて暮らした山梨、静岡、そして美大生として生活した東京、父母の思い出から、昭和の終わり、そして平成に生きる今の自分までが語られ、作者の一生を共に笑いながら経験する読書です。父を亡くした時の母を気遣う、昔のモガ友達の本物の友情が熱い「美しい人」、漱石に深く心を打たれるのにはそれ相応の人生というものが必要なのであると言い切る「本には近ずくなよ」が印象に残りました。2021/03/26