内容説明
水差しから救いの水を飲んだ直後息絶えた病床の母(「水」)。「死にたくない、俺ひとり」妻の胸で叫ぶ癌を病む夫(「谷」)。生と死のきわどさ、戦き、微かな命の甦りの感覚を、生理と意識の内部に深く分け入っていく鋭敏な文体で描出した、「影」「水」「狐」「衣」「弟」「谷」の6作による初期連作短篇集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Mark.jr
3
まだ初期の作品なので、後のほとんど幽体離脱してるかのような浮遊感は控え目ですが、いつのまにか周りが幽霊だらけになっているかのような死の気配を描いた、著者の王道をゆく作品です。2020/10/05
龍國竣/リュウゴク
3
いずれも一文字の題名の、六つの短篇によって成り立つ連作。狂気、死、声など、古井作品に通底する不安を呼び覚ます克明さが存在するが、本書では用いられている言葉が簡明で、その分かりやすさによって一層鋭敏なものとなっている。ある程度の硬度と力を備えた文章が、心地好い。2013/10/28
ジュンケイ
2
タイトルが漢字一文字の六作からなる短篇集。だから気になって読んでみた。ストーリーに関連性はないけれど、“死”のイメージは重なる。主人公の語りで、場面も時間(時代)も行ったり来たり。集中力がないと、迷子になりそうになる。でも、じっくり読むとやっぱりどれもおもしろかった。タイトルがその作品全体をイメージさせるので、主人公の頭の中は気ままのようで、そこはあまりぶれない。中でも比較的長い「弟」が一番の好み。タイトルの弟はイメージではなく、精神病院に入院することになった主人公の弟の話。ラストで「えっ!」と声がでた。2020/05/28
OKA
2
これまで読んだ古井由吉の話と同様に、世界が不安定になり、水とか街とか周りのものがやたら禍々しく変化した。2012/12/05
mada
1
「衣」すごすぎる2024/09/24