内容説明
ツキにからかわれるのも、人生長い目で見れば悪いことではない。
年々歳々、馬とともに春夏秋冬をめぐり、移り変わる人と時代を見つめ続けた作家の足跡。
日本文学の巨星が三十余年にわたり書き継いだ名篇エッセイ、初書籍化。
編・解説:高橋源一郎
何年先のことになるやら、たとえばダービーの日のスタンドかテレビの前で、そういえばあの男、このダービーをもう知らないんだ、と生前の私のことをちらりと思い出す人がいるかもしれない、と今からそんなことを考えると、心細いようで、あんがい、慰められる気持ちになる。自分一個の生涯を超えて続く楽しみを持つことは、そしてその楽しみを共にする人たちがこれからも大勢いると考えられることは、自分の生涯が先へ先へ、はるか遠くまで送られて行く、リレーされて行くようで、ありがたいことだ。
(本文より)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yumiha
40
あの古井由吉が競馬雑誌『優駿』にエッセイを書いていたのは、馬事公苑を散歩されていたことを思えば、当然かもしれない。人間を重層的に見つめてきた古井由吉だから、競馬場のサラブレッドたちも、パドックやターフでじっくりと眺めて物語をつむぎあげる。全く知らなかったリンデンリリーの物語は、岡潤一郎騎手も含めて、しんみりさせられた。一杯100円のトマトジュースがとてもおいしかった福島競馬場、コースの直線と平行になっている北門からのゆるい坂道の中山競馬場など、行ってみたいと思った。なお、本書を読んでも万馬券は取れませぬ。2021/08/04
トト
5
競馬愛好家の作家が、月刊競馬専門誌「優駿」に寄稿したエッセイの選集。1986年4月号から2019年2月号までの30余年。中央競馬のレースを主体に書かれるが、そこに世間の出来事や、人生観など織り込まれ、なかなか読み応えあります。馬と人間のドラマと哲学。レースを見に行きたくなります。2021/06/03
ちょーのすけ
5
85年のスプリングS。抜群の手応えでゴールに向かう逃げ馬の壮絶な落馬事故があった。若かった僕はそれを伝える感傷的ないくつもの記事に涙した。しかし『優駿』で古井由吉氏の「あのまま行ったらミホシンザンとクビハナの勝負だったと解説者は言ったが、私はぶっちぎって勝ったと信じる」と綴られたエッセイを読んで、本物の文章の凄味というもの知った。知らされた。この本を編した高橋源一郎は何故に、サザンフィーバーの落馬に触れた名文をチョイスしなかったのだろう?「嫁」と同様、選ぶことが下手なのか?2021/03/08
hirayama46
4
「優駿」に30年以上連載されていた競馬エッセイをセレクション収録したもの。これはものすごく良い本だ……。古井由吉の類まれなる文章力により、馬たちは生き生きと走り、競馬ファンの人々への観察力は研ぎ澄まされ、共感とともに描かれます。わたし自身はギャンブルの類はまったくと言っていいほどやりませんが、憑かれない程度に賭博をたしなむ人生というのは豊かなのだろうな……と感じます。2022/01/18
広井啓
3
優駿に掲載された競馬エッセイを纏めたもの。古井由吉の小説は敷居が高く未読だが、競馬好きとしてはこの本には目を通さずにいられない。ディープインパクトが引退した後始めて早15年。それ以前の競争馬は詳しくないので、いきおい後半の競馬徒然草を中心に読み、前半は流した。2021/03/26