内容説明
翻訳者はみんな変っていて、それに貧乏だった――。直木賞受賞作『遠いアメリカ』と同時期を背景に、出版界の片隅でたくましく生きる個性豊かな面々を、憧れに満ちた青年のまなざしからとらえた自伝的連作集。巻末にエッセイ「二十代の終わりごろ」他一篇を付す。〈解説〉青山 南
【目次】
翻訳の名人/若葉町の夕/線路ぎわの住人/四月の雨/初夏のババロワ/黒眼鏡の先生/喫茶店の老人/新しい友人/夜明けの道/引越し/夏の一日
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〔エッセイ〕昔のアパート/二十代の終わりごろ
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
詩 音像(utaotozo)
22
リアルタイムで読んで以来、著者のデビュー作はずっと心の片隅に。故に「もう一つの『遠いアメリカ』」という帯の惹句と共に本書を書店で見つけた際、思わず、そんなのあったの!?と口走り即購入。1960年頃のことを描いた自伝的連作短編集。出版社で編集者として働き始めた主人公。小さなアパートでの新婚生活。憧れの翻訳者たちとの出会い。仕事としての翻訳が如何に稼ぎにならず翻訳家が貧乏か、様々な人の姿を通して描かれるが、その夢と情熱は通奏低音のように鳴り続ける。妻の女優仲間アッコは野村昭子?モデルの特定ももう一つの楽しみ。2021/06/04
ねなにょ
20
ミステリーの翻訳者である作者の自伝的小説。懐かしい映画を観ているように登場人物たちが生きている様子が窺える。翻訳の仕事は、大変な割にギャラが安い。もっと評価されるべきだと思う。とても面白かった。2022/02/17
Inzaghico
12
小林信彦との確執も当然出てきた。小林の言い分は『夢の砦』で読んだが、常磐の言い分はこれで読んだ。いずれにしても、これだけこじれてしまったらもう元には戻らない。 たびたび登場する、道玄坂のペーパーバックを売る店が気になる。いつくらいまであったんだろうか。米軍基地の兵士が売った本や横流し品なんだろうが、こういう店が好きなんだよなあ。アジアの観光地によく欧米の古本を扱っている店があり、その棚を眺めるのが至福のときなのだが、きっとそういう感じの棚だったんだろうなあ。今の日本だともうやっていけないんだろう。寂しい。2021/03/02
lovemys
10
私の全く知らない時代の生活だけど、その時代に生きている人々が瑞々しく描かれていて、目の前に見えてくるよう。純朴で純粋な人々が、不安と貧しさの中楽しむ日々が、今では手に入らない宝物のように描かれている。その時代を知らないのに、読んでいるだけで涙がでちゃう。なんか、私自身、こんなに単純で純粋な日を生きたことあったのかなと考え込んでしまった。こんな時代があったのかと、なんだか羨ましいような気分。色々と赤裸々で、顔をしかめちゃうようなところもあるけど、読後は一生懸命生きていこうと思えた。清々しさを感じられる1冊。2022/10/21
qoop
9
戦後の色を濃く残しつつ新たな視線でアメリカを見ることにも慣れた60年代の東京。世間から外れた翻訳家たちの生き様に接しつつ、ドロップアウトへの抵抗感を覚えながら自分もまた翻訳家として世に出ようと足掻く若き著者。それぞれが測る社会との距離感、家族と深める確執を淡々と書きながら、世に出ようとする若者の強かさと脆さを写した自伝的な作品で、焦燥感を含んだ希望を描く。2021/09/11