内容説明
3年前、会社から帰宅する途中の吉田大輔氏(30代、家族は妻と男児一人)は、電車を降りて自宅に向かうあいだで一瞬にして19329人に増殖した――第7回創元SF短編賞を受賞した「吉田同名」をはじめ、ある日なんの前触れもなく縦半分になった家で、内部が丸見えのまま平然と暮らし続ける一家とその観察に夢中になるギャラリーを描く表題作、すべての住民が白と黒のチームに分かれ、300年にもわたりゲームを続ける奇妙な町を舞台にした「白黒ダービー小史」など全4編を収録。突飛なアイデアと語りの魔術が紡ぎ出す、まったく新しい小説世界。/【収録作】吉田同名/半分世界/白黒ダービー小史/バス停夜想曲、あるいはロッタリー999/解説=飛浩隆
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さっとる◎
30
あらすじが用をなさないというのは素晴らしいことだなと思う。たった一言で表せてしまう一点突破の奇想、その先に広がってるやら掘りすぎて深くなりすぎたやらの景色。用意されたのは舞台だけで、夜には星が輝いてまた朝がくる。季節がめぐりにめぐり、見る者は見られている者になる。時間が過ぎて人物が登場しては去り、残された舞台には歴史が積もり永遠が現れる。もとが何だったのかはもう誰にもわからないし、もとには戻れない。それでもフジワリ、フジワレて、しまいには異国の神話めいた場所で私も来ないバスを待っている。見上げた空に星座。2023/03/11
シキモリ
21
表題作を含む全四篇の作品集。不条理でぶっ飛んだ事象を発端とするが、その後の発展をさもありなんと思わせるディテールの積み上げと理路整然とした流暢な語り口調による(良い意味での)胡散臭さが独特の味わいを醸し出す。こねくり回した挙句、哲学的な着地点に収束するのも面白いが、全力でふざけ倒す類の作品にしては晦渋な言い回しが多く、ディテールを積み過ぎて間延びするので、途中でダレてくる。渾身の作であろう「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」の後半は文字を追うので精一杯だった。私は「白黒ダービー小史」が一番好きかな。2021/01/29
かわうそ
20
発想の目新しさディテールのきめ細やかさにどこか懐かしい語り口。どれも面白かったけど、中でも「バス停夜想曲、あるいはロッタリー999」はコルタサル「南部高速道路」の変奏曲といった印象で非常に好み。こういうのがもっと読みたい!2021/01/31
ソラ
12
短編4本とも面白かった。世界観にすっと入らせてくれる筆力がある。2022/04/02
ほたる
11
圧倒的に発想力の勝利。四本とも面白い。文章の描き方が説明文らしくなっていることが、不真面目なことを真面目に書こうとしているギャップを生んでいて、そこもまたたまらない。全く飽きが来ずにグイグイと読まされた。「吉田同名」は大量発生した吉田大輔たちが集団としてどう変わっていくのかが興味深かった。「半分世界」は突如として半分になった家の住人、を見守る周りの人たちが愉快で面白い。2021/11/28