内容説明
ソ連軍侵攻直前の満州を、ユーモラスに描く。
昭和19年、いわゆる“三文文士”の木川正介は、永く喘息と神経痛とを患っており、招集も受けずにくすぶっていた。そこへ、某開発公社の嘱託の話が舞い込んできて、厳寒の満州に赴くことに。物資不足などで環境は厳しいものの、内地にいるより自由がきく日々をそれなりに楽しんでいた正介だが、突然、召集令状が舞い込んできて――。
戦争に対しても、上官に対してもシニカルに見る姿勢を保ちつつ、現地の人々との交流など満州での日常を、生々しくユーモラスに描いた傑作長編小説。第13回芸術選奨文部大臣賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
A.T
23
夏の読書に、日本の戦争物を選ぶことにしている。今年は… 40歳過ぎて1944年の冬に、わざわざ混乱に巻き込まれるために満州へ渡ったような人、木山捷平の体験を元にした中編小説(半日でさらっと読めます)。今当地は中国の領土だが、日露戦争後から終戦まで当地が日本の延長ということを不思議な気分で味わえる。何せどこへ行っても日本語が通じる、日本人が対応してくれる。中国人もロシア系もみんな日本語。知識のない人ならば、単純に旅行記のような軽い気分で読み終えそうだ。 2022/07/18
こうすけ
18
面白かった!吉本隆明が絶賛していたのが気になり読む。独特の魅力。なんだかとらえどころのない、三文文士の木川正介が、昭和19年末、満州にやってくるところから物語ははじまる。といっても、仕事もせずにずっとお酒を飲んでいる。おじさんなので、みんなあんまり怒らないし、怒られても言い訳ばかり。戦争の闇とかを描くわけではなく、馬、鶏などの自然への愛着や、たまにいいやつもいる軍人たちの不思議な姿を描いている。たんに日記形式で進むのでなく、かなり複雑に時間軸が交錯する構成が読みごたえあり。ほかの作品も読みたくなった。2023/06/21
ソングライン
17
友人に誘われるがまま大戦末期の満州国へ会社嘱託として渡る主人公、仕事をするわけではなく、寒さをしのぐため毎夜文人の友人たちと酒を飲み過ごしています。そんな折、ソ連の侵攻を防ぐため急遽召集され、対戦車の自爆訓練をさせられる主人公ですが、病人を主張しトイレにこもり、戦いの時どこが安全かを模索します。戦争下でも国家の行く末を思うことなく個人主義を通すユーモラスな行動に大いに共感してしまうのです。2024/05/11
アメヲトコ
6
木山捷平がペーパーバックで復刊されるのはありがたい。内容としては「長春五馬路」の前段にあたり、満洲の農地開発会社の嘱託として大陸に渡ったときのエピソードが綴られます。終盤なかなかに深刻な状況になりながらも、どこか飄々とした文体に救われます。木川正介の名前を見ると旧知に再会したような気分に。2022/03/02
クッシー
3
神経痛の文士、木川の満州での生活を描いた作品。神経痛で体調が優れないせいか、毎日大量の酒を飲んでいるシーンがとにかく多い。持病なのは仕方ないがこっちが心配になるほど。あと満州には偉そうな軍人がいるのだが、そんな彼らに対しても結構食い下がるシーンが印象的だった。僕なんかは「はい」と服従するだろうと思うので、やっぱり権威的な人間に対して反論したりするのは痛快だった。現地の人々の力強い生き方、「塞翁が馬」と書いてあったが、そういう生き方にはあこがれがある。2022/02/17
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