内容説明
著者の50年に及ぶ文業のうちでも、第一の傑作短篇集――男女の関係性の善悪は、つねに社会の規範の中にあるが、ここに登場するヒロインたちは、もっとも女性的に生きることで、社会への反逆者となり、そこには満ちあふるるエロティシズムと頽廃とが生と死を越えて、抽象にまで至る愛のリアリティをもって存在する。表題作のほか「公園にて」「予兆」など、8篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ふくしんづけ
12
意外にも、格調高いという感じはあまりない。気負って読んだからよけい感じるのかもしれないが、人称の多用、重複、修飾が多めなのが気になりはする。清廉な日本語らしい文章というより、冗舌体。しかし追従する作品とは一線を画すだろう。時間や過去の使い方が巧み。「蘭を焼く」は時間も場所も限定される小説。こういう淀んだ閉鎖的な空間で、歪な関係性が如実に、挙動、事象のささやかな異常性として、表出してくる作品は好き。夜は明けず、象はまだ外にいたのか、知ることはできない。ほかでお気に入りなのは、「予兆」「樹の幻」。2022/12/05