内容説明
世俗化のトップランナーとみなされてきた近代ヨーロッパ。しかし、その文化や生活習慣、制度や政策の基層には、今なお、キリスト教、ことに中世以来の伝統宗教であるカトリックの存在が垣間見える。カトリシズムというプリズムを通して、近代ヨーロッパとキリスト教との対抗・相互補完の歴史を探る論文集。
目次
序[中野智世]
第I部 教育・文化と信仰継承
第1章 神のいる学校――一九世紀フランスにおける女性教師の養成[前田更子]
一 公教育のなかの宗教
二 女性教師と修道会、公権力
三 教師をめざす娘たち
四 神のない教育はない、神のない道徳はない
五 宗教と知識のはざまで
六 文化・心性としてのカトリックの継承
第2章 社会主義政権下での宗教実践――スターリン期ポーランドの新興工業都市の暮らし[加藤久子]
一 カトリック教会をめぐる両義性
二 コンビナート都市の建設
三 新興都市におけるカトリック信徒
四 日常生活のなかのカトリシズム
第II部 近代政治とカトリック
第3章 カトリシズム・リベラリズム・デモクラシー――ラムネ、トクヴィルの見たアイルランド[勝田俊輔]
一 ウィーン体制下のカトリシズム
二 ラムネとアイルランド
三 トクヴィルとアイルランド
四 アイルランド・カトリシズムの広がり
第4章 言論統制下のカトリック――スペイン・フランコ独裁における経験[渡邊千秋]
一 「新国家」の言論統制と教会
二 「カトリック」的ジャーナリズムの系譜
三 フランコ独裁下の言論・思想統制
四 兄弟会連盟、その創設・活動と葛藤
五 兄弟会連盟とはなんだったのか
第5章 もうひとつの「近代政治」――オランダのカトリック政党と「豊かなローマ的生活」[水島治郎]
一 キリスト教民主主義の「社会的基礎」
二 「豊かなローマ的生活」カトリック社会による信徒の包摂
三 ローマ・カトリック国家党と「赤」
第III部 工業化・都市化のなかの聖職者
第6章 労働者の司教ケテラー――一九世紀ドイツの社会問題とカトリック社会思想[桜井健吾]
一 社会問題とケテラー
二 ケテラーは社会問題への認識をどのように深めていったか
三 ケテラーの社会思想にはどのような特徴があるのか
四 社会回勅の先駆者
第7章 世紀転換期ドイツの赤い司祭――H・ブラウンスとカトリック労働運動[尾崎修治]
一 ドイツの労働問題とカトリック聖職者
二 工業都市の赤い司祭
三 労働運動の司令塔として
四 信仰実践としての労働運動
第8章 都市化とカトリック教会――ピエール・ランドが見た両大戦間期のパリ郊外[長井伸仁]
一 宗教史と都市史の交点
二 ピエール・ランド
三 『郊外のキリスト』
四 転換期の教会
第IV部 社会問題とカトリックの世界観
第9章 奇蹟の聖地と医師――ルルド傷病者巡礼を通してみる宗教と科学[寺戸淳子]
一 聖地ルルド
二 医師・科学者とルルド
三 カトリック医師の社会活動
四 ルルドにおける医学と宗教
第10章 マフィアとカトリック教会――犯罪と悔悛[村上信一郎]
一 マフィアに対するカトリック教会の沈黙
二 マフィアとは何か
三 信心深いマフィア
四 マフィアと聖職者
五 告白と悔悛
六 罪には厳しく罪びとには寛大に
七 おくればせながらの破門宣告
第11章 カトリック慈善の近代――ドイツ・ヴァイマル福祉国家におけるカリタス[中野智世]
一 現代のカリタス
二 一九世紀のカトリック慈善事業
ほか