内容説明
癖があり頑固だが、ときにやさしく勇敢なオリーヴ・キタリッジ。老境を迎えた彼女の日々と、海岸沿いの町クロズビーの隣人たちの悲喜こもごもをつづった傑作ぞろいの13篇を収録。ピュリッツァー賞を受賞した傑作『オリーヴ・キタリッジの生活』11年ぶりの続篇
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
126
メイン州の架空の町クロズビーに住む元中学教師オリーヴの晩年を描く短編集。率直で口が悪いが時には妙に愛される彼女は二人の夫に死別し、息子との不和や老齢の孤独と不便に直面するが持ち前のたくましさで何とか局面を切り開く。彼女を取り巻く世代間のギャップや価値観の変質を通じアメリカ社会、つまり世界の変容が描かれる。「みんな抱えるものがあって生きている」とは町の弁護士バーニーの言葉。のどかな町にも銃犯罪やドラッグの影は色濃い。ラスト近くでは古き良きアメリカの価値観を粉砕するトランプ候補の存在がオリーヴの心を脅かす。⇒2021/08/20
ちゃちゃ
123
老年期とは如何なるものか。86歳のオリーヴがひとつの示唆を与えてくれる。小さな田舎町に暮らし偏屈で周囲の思惑を気にせず、ともすれば周りから疎まれるのにどこか憎めないオリーヴ。二人の夫を看取り自らも老人施設に入所して、遠い先に漠然とあった老いに絡め取られる。「そろそろ死ぬのだ。えらいこっちゃと思った」…あのオリーヴが死への恐怖と孤独に震える日々を過ごすとは。けれど、作者(訳者)の筆のなんと真率で魅力的なことか。老いとの折り合いの付け方を乾いた筆致で描き、それなのに人生の哀歓がしみじみと心に響く秀作だ。2021/07/14
buchipanda3
108
オリーヴ・キタリッジ、相変わらず不思議な魅力のある女性だった。古風なニューイングランド北部の町でずっと暮らしているおばさん、いやもうお婆さんか。どこが良いかというと自分を偽らない正直なところ。その分、クセがあるがブレない颯爽とした言動に惹かれる。ただ今作では老いる自身を見つめるだけに、その心情の揺れの真っ直ぐな描写に読み手も老いへの不安に囚われた。それでも彼女らしい気持ちを失わない人間味ある姿が残る。特別ではない人生、でも個々に深みがある。彼女が好きと言った雪深い土地の二月の光を思い浮かべて本を閉じた。2023/12/07
アキ
104
オリーヴの続編。74歳になりジャックと再婚した。そうして8年連れ添い、彼も逝った。86歳になり、周りの人達はいつの間にかいなくなっていた。数学の授業中「みんな、自分のことはわかるでしょ。自分に目を向けて、耳をすませる。どんな人間かわかるよね。それを忘れちゃだめよ」と言った。人生の終わりがけに自分をゆっくり振り返ると、2人の男に愛されたことを思う。息子も最後にこっちを向いてくれた。もし、気に入らないとしたら、このいまいましい自分なのだ。でも、今さら思っても、しょうがない。ままならないのは、いつも自分自身。→2022/02/15
なゆ
104
ああ、その後のオリーヴ・キタリッジがどうなったのか。加速度がついて引き続き“ふたたび”へ突入。74歳にしてジャックと出会ってからの86歳までの日々で、人生第二部とでも言えよう。ここにきて、時には過去を思い返して反省してみたりもするが、やっぱりオリーヴ道まっしぐら。息子一家とうまくいかずモヤモヤしたり、衰えてきた体にオロオロしたりしながらも、まだ人生は続く。口は悪いが結構世話焼きで、どうにも味わい深いオリーヴをまだまだ読んでいたいのに、終わりなのだ。えらいこっちゃ。2021/07/18