内容説明
日本の叙景歌は,偽装された恋歌であったのか.和歌の核心にはいかなる自然観が存在していたのか.和歌と漢詩の本質的な相違とは? 勅撰和歌集の編纂を貫く理念とは? 日本詩歌の流れ,特徴のみならず,日本文化のにおいや感触までをも伝える卓抜な日本文化芸術論.コレージュ・ド・フランスにおける,全五回の講義録.(解説=池澤夏樹)
目次
一 菅原道真 詩人にして政治家┴二 紀貫之と「勅撰和歌集」の本質┴三 奈良・平安時代の一流女性歌人たち┴四 叙景の歌┴五 日本の中世歌謡┴あとがき┴現代文庫版あとがき┴解説(池澤夏樹)
感想・レビュー
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KAZOO
103
大岡さんがパリで行った日本文学についての5回の講義をまとめられたもので、海外の人を対象にしているので内容は結構高度でありながらわかりやすい気がします。私は個人的には5回目の「日本の中世歌謡」という会が非常に楽しめました。能・狂言ばかりではなく茶道もこの時代にかなり発達したことも触れられています。今後は大岡さんのこのような文章が高校の教科書や大学入試問題に取り入れられていくのでしょうね。2018/01/11
双海(ふたみ)
25
コレージュ・ド・フランスにおける講義録のため、話し言葉で書かれており大変読みやすい。日本詩歌の流れをおだやかな口調で講義してくださる。内容は非常に洗練されており、また、著者の詩歌にたいする愛惜の念が伝わってくる。ひとことで言えば私はこの本が好きだ。「和歌は原理的に見て、女性なしには存在しえない詩であったのです」・「日本では、恋歌がそのままの姿で風景詩でもあれば自然詩でもあったところが、たぶん世界のどこにも見られない独自の性格だったのです」2018/02/14
かふ
24
日本の詩歌は和歌の伝統に囚われていくのではなく、菅原道真の漢詩から始まり男の形式性よりも女たちの感情表現から、民謡的な今様に至るまで中心を求めるよりは外部の影響をうけて変化していくもので、それが大岡信がコレージュ・ド・フランスでやる講義の意義なのだ。それは日本の詩が日本人にしか理解できないというものではなく、詩の根源に係る他者とのコミニュケーションということなのかも知れない。和歌も相聞という恋歌から始まった。まず詩や和歌を好きになることなのかな。そこから始まるのである。2024/08/12
ロビン
18
詩人の大岡信が、コレージュ・ド・フランスで行った連続講義を元に書籍化したもの。著者も書いているように明晰で分かりやすく、内容の濃さに比して読みやすかった。平安時代初期の菅原道真の漢詩から、中世の「梁塵秘抄」「閑吟集」までを扱っている。解説は池澤夏樹。日本人には当然のこと(和歌や俳句の詩としての短さ、言語の構造上日本の詩歌に押韻のないこと、平安時代の女流詩人の多さなど)もフランス人には新鮮であったと思われ、その反射で改めて日本の詩歌というものの特徴を考えさせられた。政治詩や思想詩の貧困には理由があったのだ。2023/12/14
呼戯人
17
大岡信が1994年と1995年にフランスのコレージュ・ド・フランスで行った日本の詩歌に関する講義を文庫化したもの。漢詩人としての菅原道真の評価から、人と人の心の調和を重んじた古今和歌集、和泉式部や式子内親王などの女流詩人、梁塵秘抄や閑吟集の歌謡などを取り上げ、日本の詩歌の特徴を明快な文章でつづったもの。明晰を重んじるフランス人を前にした講義のため、大岡の文章もこのうえなく明晰に日本の詩歌の特徴を述べている。日本の詩歌を論じた本でこれほど明晰な文章をこれまで読んだことがなかった。2017/11/25