内容説明
怒り、逃亡の果てに
アイヌの地で何を見たのか
「読後、無垢な感動に満たされる」唯川恵(解説より)
北海道・屈斜路湖。アイヌの木彫り作家・敬蔵と孫娘・悠の家に、
尾崎雅比古と名乗る若い男が訪ねてきた。男は弟子入りを懇願。
初めは煙たがられていたが、敬蔵から木彫りを教わり、山に入るようになる。
しかし、男には誰にも明かせない過去があった――。
自然を尊んで生きる敬蔵、アイヌから逃げ出したい悠、
自らの原点を探す雅比古。感涙の新家族小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
101
凄まじいエンディングの感動に、もっともっと浸っていたいと思った。個人的好みでいえば、昨年読んだ直木賞受賞作の『少年と犬』以上の迫力に圧倒された。北海道の神秘的大自然を背景に、アイヌ民族で野生動物の木彫り作家の老人と孫娘の家族を主人公に描いた人間ドラマです。今作に私は完全ノックアウトされてしまいました。紹介したいことは、山ほどありますが、もうこれ以上書けません。読んでいただくしかないです。2021/02/03
ぶんこ
65
感動の一作でした。アイヌと和人、日本にも人種差別があったこと。そして虐めもあったのは小説の中だけではないのでしょう。敬蔵さんの自然、動物への敬虔な気持ちに圧倒されました。襲いかかってきたヒグマにも感謝の祈りを捧げる気持ち。悠さんが滝霧と朝日を前にして感動し、敬虔な気持ちになったこと。神の存在を感じたこと。そういった体験を重ねてきたアイヌの人々。自然と人間との融和。罪と罰。重いのに、爽やかな読後感の不思議。思いがけずに殺人者になってしまった健吾さんの辛さも思う。「許す」ということの重みを痛感しました。2021/05/06
はつばあば
60
読メの有難さを知る一番は本のレビューと読み友さんの励まし。この本も知らずに一生を過ごしたかもしれない。知らなくても構わないっちゃそうでもありますが、私もこの本を読まれた、教えてくれた読み友さんに感謝です。和人とアイヌ・・今はどうか知りませんが高校の修学旅行で行った時はそれこそアイヌの人達が土産物屋さんに結構いらっしゃいました。その時はアイヌの人達は神に感謝して誇りをもって生きてられると思ってきましたが・・葛藤もあるんですね。今は手に職を持つかITに堪能か公務員・・どちらかでしか生きられないなら木彫りも・・2021/02/06
えみ
59
自然との調和、穢れのない純真無垢な家族の物語に鳥肌が立った。これほどまでに深呼吸が似合う小説に出会ったのは初めてかもしれない。誰かを想い、誰かのために煩悶とする人間の愚かなる可愛さ。知らず知らずのうちに姿勢を正してこの美しき物語に向き合っていた。アイヌが生きている。カムイも棲んでいる。大自然の中、山や森、川に海、そして湖に。北海道の屈斜路湖を舞台に、人間の弱さと強さ幸福の在り方が、秘密を抱えてこの地にやってきた男と、アイヌの木彫り作家とその孫娘を巡る奇妙で温かな日々から描かれる。赦しのカタチを刻む一冊。2020/12/08
カムイ
47
馳星周の作品は好きでよく読むがあの震災から作風が変化しているのがわかる、ノワール作の代表選手でしたがこれはこれで楽しめる作品であった。馳星周は北海道の浦河町の出身であるからアイヌの人々とは日常的接していたので迫害されるアイヌの立場を身を持って感じていたのだろう、ストーリーは家族の絆、過ちはありながら其を許せることが馳星周の語りかったこであるのだろう。ここで樹というキャラが登場するがカムイはコイツが嫌いでたまらない往生際の悪い人であった。そして北海道の自然も堪能したし摩周湖の滝霧もあれは感動ものです😆2023/07/29