内容説明
その島では多くのものが徐々に消滅していき、一緒に人々の心も衰弱していった。
鳥、香水、ラムネ、左足。記憶狩りによって、静かに消滅が進んでいく島で、わたしは小説家として言葉を紡いでいた。少しずつ空洞が増え、心が薄くなっていくことを意識しながらも、消滅を阻止する方法もなく、新しい日常に慣れていく日々。しかしある日、「小説」までもが消滅してしまった。
有機物であることの人間の哀しみを澄んだまなざしで見つめ、空無への願望を、美しく危険な情況の中で描く傑作長編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mae.dat
276
長編ですが、28章立てで、1章辺りのページ数は10ページ弱程で、合間、合間にパラパラと読めます。秘密警察が蔓延る中々に理不尽なディストピア世界。息苦しい。秘密警察の人達は公務員なのかな。服従行動と言うのかなぁ。人の子であると思うのですけど、冷徹な任務を遂行するのね。本書は喪失の物語。そこには様々な「何故」が伴うのですけど、それには答えてくれないのね。又しても多くを語らない文學。ムズい。解説の最後に洋子さんとの対談のエピソードを添えてくれているのですけど、それを読む迄タイトルの事をすっかり忘れていました。2025/01/15
ねこ
182
不思議でどこか懐かしい異国の世界観。その島では記憶が少しずつ消滅していきます。リボンだったり香水だったり帽子だったり…。島の人はなにが消滅しても適応し、受け入れそして忘れていく。でもそんな消滅の縛りの外にいる人達も居る。消滅する対象はどんどんエスカレートしていってやがて…。著者の小川洋子さんは「人間があらゆるものを奪われたとしても、誰にも見せる必要のない、ひとかけらの結晶があってそれは何者にも奪えない。心の中にある非常に密やかな洞窟のような場所に、みんながそれぞれ大事な結晶を持っている」と…心が震えました2023/07/21
ケンイチミズバ
114
戦死者の名も数も報告されない。戦争をしていることすら記憶から消されるようなロシアという国の従順な国民のことを思いながら読んだ。写真が消滅する時が来て、彼女が口にした言葉に写真より記憶に残る父や母の思い出の方が大切なもの、それがあるから平気だと。失われたものを失われたと認識できる者は作品世界では特殊な存在として扱われ、秘密警察により記憶狩りにあう。アンネフランクがナチスから逃れ隠れ住んだ様子を思い起こさせるような状況も登場する。記憶から失われた方が権力者に好都合なモノがまだまだ世の中にはたくさんあるだろう。2023/04/26
アキ
113
1999年出版された文庫の新装版。2019年全米図書賞、2020年ブッカー国際賞と立て続けに候補作となり国際的評価も高まる。「アンネの日記」を彷彿とさせる秘密警察、地下室へ匿うこと、徐々に失われていくディストピアを描いており、欧米の読者に親和性が高いのかもしれない。閉ざされた空間で耐え、失われていく記憶のまま、生きずらい世界を生き抜くことは、現代社会を描いているようでもある。主人公の書く小説の中で、女が言葉を失くし男に支配される世界が描かれる。言葉を失くしたら物語を紡げない。すると自分の心も守れなくなる。2021/10/04
fwhd8325
104
1999年の作品です。出版時にはまだ3.11も起きていませんし、コロナも発生していません。時代を先取りしていたというありきたりの言葉で語ってはいけないように思います。人が大切にしているものを突き詰めた結果が、この物語なんだと思います。戦時下の圧政のような恐怖を感じながらも、どこか童話の世界のような温もりも感じていました。小説という表現は、凄いなと感じます。2021/01/28
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