内容説明
終わりなき災厄に見舞われたとき、人はそれにどう向き合うのか? 治療法のない疫病に突如襲われ、封鎖されたアルジェリアの都市オラン。そこに生きるひとびとの苦闘と連帯を描いた、ノーベル賞作家カミュの代表作『ペスト』の内容と文学的意義を、幅広い分野にわたる評論とフランス文学の翻訳で知られる中条省平氏が、当時の時代背景やカミュ自身の体験をまじえて詳述。カミュの高い先見性に触れながら、『ペスト』に描かれる普遍的で哲学的なテーマを、「コロナ後の世界」から検証・再考する「ブックス特別章」を収載!
【構成】
はじめに:海と太陽、不条理と犯行の文学
第1章:不条理の哲学
第2章:神なき世界で生きる
第3章:それぞれの闘い
第4章:われ反抗す、ゆえにわれら在り
ブックス特別章:コロナ後の世界と『ペスト』
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
89
著者は現在カミュ「ペスト」の新訳に取り組んでいる最中らしい。翻訳という孤独な作業を行っているところに今回のコロナ禍。改めてこの70年も前に書かれたフィクションの一文一文に、深いカミュの洞察と彼の生い立ちからの言葉を感じ入り実に滋味深い洞察になっている。フランスは今でも神の存在が大きい土地であり、不条理への血の通った人間の物語だけでなく、ヒロイズムの否定、記憶のための言葉の力への信頼など現在に通じる指摘が染み入るように読めた。この書はNHKのスタッフが語りをまとめたものだが、新訳ペストが出たら必ず読みます!2020/10/24
takka@ゲーム×読書
25
来月自分の主催している読書会でカミュの『ペスト』を課題本にした読書会を行うので、『ペスト』を読む前の入門書としていつもの100分de名著のブック版を購入。コロナの影響で病魔が世界を覆う古典の名著として有名な『ペスト』が再び爆売れする現象が起きたが、それに伴い自分が好きな光文社古典新訳文庫からも発売されるのを機に読んでみようと決めた。タイトルのとおり、カミュは『異邦人』とともに『ペスト』でも社会の不条理をテーマにした小説を書いているが、なぜそのような本を書くようになったかを著者の背景から説明している。2021/09/21
おたま
21
内容は、以前読んだ「100分de名著 アルベール・カミュ『ペスト』」と同じ。それをブックス版で再発行したもの。なので、既出部分は流し読み。ただし、この中には「ブックス特別章 コロナ後の世界と『ペスト』」が含まれており、これを読むだけでも十分価値がある。また、現在著者の中条省平さんが『ペスト』の新訳をしているとも書かれている。本文の中でもご自分で訳された文章を使っていられるが、非常に明快な文章だ。中条さんの新訳による『ペスト』が出版されたら、ぜひ読みたいものだ。大変期待している。2020/10/27
ズー
14
コロナ禍で全世界で読まれるようになった「ペスト」がどんな作品なのか知りたくて読んでみた。この本で、どんな話か大筋は分かったけれど、やはり本作も読みたくさせる。カミュの世界 人間 死 の考え方に感銘を受けた。70年前に書かれたとは思えない内容。人は生まれた時から死刑宣告を受けている。厄災は完全になくなることはない。完全な自由などない。いかに自分ができることをするか。2020/11/01
ラウリスタ~
11
コロナ禍にてカミュのペストを読むこと、フランスでも日本でも起こったカミュリバイバル。カミュをその思想に注目して読むのではなく(不条理というキーワードばかりが先行してしまう)、あまり思想が前面に出てこないためにカミュの中でも傑作であるペストの、多声性に注目していく(コロナ禍同様に、人々は様々な反応をする。中には他の人が同じく拘禁状態に置かれたことに喜ぶ犯罪者などもいる。カトリック司祭と医者の対立も(これはちょっとありきたりか))。カミュ文学における太陽と海、共感の体験。悲惨なのに明るい。2024/03/21