内容説明
〈媚態〉〈意気地)〈諦め〉という三つの契機から、日本的美意識「いき」の構造を解明した九鬼周造。ハイデッガーやベルクソンらに師事し、豊かな方法的視座を身につけたこの哲学者にとって、人と人とのめぐり逢いの謎は、自身の実存ともあいまって生涯を覆うものであった。「偶然性」の哲学の誕生だ。のちにそれは、日本文化論における「自然」の思想においてひとつの帰結をみる。没後、時代ごとに異なる光が当てられてきた九鬼の哲学。本書は、自伝的エッセイからヨーロッパでの講演、人生観、晩年の詩論まで、その全体像と独創性を一冊で提示する。
目次
Ⅰ 自伝的エッセイ
根岸
岡倉覚三氏の思出
藍碧の岸の思い出
回想のアンリ・ベルクソン
岩下壮一君の思出
Ⅱ 九鬼哲学の出発点
時間の観念と東洋における時間の反復
日本芸術における「無限」の表現
Ⅲ 「いき」の哲学
「いき」の構造(抄)
Ⅳ 実存哲学の受容
実存哲学(抄)
ハイデッガーの哲学(抄)
Ⅴ 「偶然性」の哲学
偶然の諸相
偶然性の問題(抄)
Ⅵ 九鬼哲学の全体像
人生観
哲学私見
人間学とは何か(抄)
Ⅶ 日本文化論
日本的性格
風流に関する一考察
情緒の系図
Ⅷ 文芸論
文学の形而上学
日本詩の押韻(抄)
関連論考
安田武・多田道太郎『『「いき」の構造』を読む』より
坂部恵『不在の歌──九鬼周造の世界』より
マルティン・ハイデッガー『言葉についての対話』(高田珠樹訳)より
天野貞祐『をりにふれて』後語
解題
解説
九鬼周造年譜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬弐仟縁
35
「日本芸術における『無限』の表現」:日本の芸術は、インド神秘主義と中国汎神論の影響のもとに発展(067頁)。日本の武士道は、絶対精神の信仰で物質の軽視(068頁)。日本画の四つの特徴(傍点付)は、正確な遠近法の不在、自由な構成、線の重要性、水墨画(072頁)。日本の彫刻と建築は、線の優位性と、単純さおよび虚空への好尚のうちに示されている(073頁)。日本芸術一般の最も秀れた特徴は、無限の表現(085頁)。2021/08/24
naof
1
情緒の系図みたいな論考は、いかにも研究好きな人が楽しんで書いたものって感じてちょっと面白かった。読み手としてはなかなかついていけないんですけどね。2020/08/22
高尾樹和
0
始めて触れる哲学書でした。約100年前に書かれた文章ということもあって、初心者には非常に読み取りづらく難解でした。読んだのは「いきの構造」と「偶然の諸相」「偶然の問題」。巻末の解説にて、上記についてかなり要約したものが書かれている。哲学とはとても奥が深いと感じた。2024/02/19