内容説明
ヒューゴー賞受賞作「折りたたみ北京」の鮏景芳が描く〈中国×1984年〉。
一九八四年、春。天津市の工場でエンジニアとして働く沈智は、半年後に第一子の誕生を控えていた。ある日、友人の王老西から起業の計画を持ちかけられ、一度は断るが、自分が間もなく三十歳になること、毎日同じことを繰り返す日々を過ごしていることにふと気がつき愕然とする――
二〇〇六年、春。〈私〉は父・沈智の暮らすプラハに来ていた。大学卒業を控え、十年以上会っていなかった父に留学の相談をしに来たのであった。父は優しく背を押すが、結局〈私〉は覚悟を固められない。友人たちが目標に向かって邁進していくなか、〈私〉は留学申請に失敗、祖父のコネで地元の統計局に職を得る。ところが、毎日同じことを繰り返す日々を過ごすうち、鬱を発症してしまう……
時代の大転換に翻弄され、ついには家族を置いて国を出る決断をした父・沈智。現代中国で自分の生き方を見失う〈私〉。選択しなかったもう一つの人生への憧憬。二つの時代の中国で、人生の分岐をさまよい続けた父娘の物語が描く円環の先に、衝撃の結末を迎える!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
115
1984年生まれの中国人女性作家による自伝めいた小説。著者曰く、自伝ではなく自伝的な形で、中国の二つの時代を見つめて感じたものを描いているとのこと。中国が自由経済へ移行しつつある1984年の両親の姿、その年に生まれた女性が成長して2000年代を生きる姿、ある種、変動期の青春記と言える。当時の息づかいを感じさせる文章を読ませるが、あえてかドラマ性は控えめ。それでも長々と読むうちに、著者の哲学など種々の「知」にSFを味付けしたものが頭の中で煌めき出し、さらにあの終盤を迎え、小説という虚構世界の醍醐味に溺れた。2021/05/18
keroppi
80
「折りたたみ北京」の郝景芳の自伝体小説。1984年に生まれた著者の自伝かと思っていたら、自伝"体"小説。生きてきた時代の歴史的事実や感じたであろう精神的変遷が語られる。自分がまだ生まれる前の父と母も「父」と「母」としてリアルに存在し、時間が行ったり来たりする。SF作家である著者は、この時代から現代に続く中国を自分の生きている場所として、独特の手法で描いていく。ジョージ・オーウェル「1984年」と合わせて論じられる批評を目にするが、恥ずかしながらまだ読んでいない。やはり読んでみようかな。2021/04/07
かもめ通信
29
その時代、その年齢だった時に自身が感じたことや経験に別の衣をまとわせてフィクションとして描くという「自伝体小説」。1984年生まれの著者は、同じ年生まれの主人公軽雲という衣をまとって悩み苦しむと同時に、娘が生まれたその年に人生の大きな分岐点にさしかかった軽雲の父親沈智の物語をも語りあげる。一見するととても内省的な物語であるように思われるのに、実は中国という国の歴史や社会、そこで暮らす人々の生き様を描いていて、さらにはそれは「中国」という衣をまといつつ人間の普遍的な問題を扱っているように思われた。 2021/01/11
Shun
27
中国の作家、「折りたたみ北京」がヒューゴー賞受賞と注目の作家です。タイトルからも分かる通りオーウェルの「1984年」からの着想を取り入れ、また中国の歴史にとっての転換点となった出来事についても言及した自伝体小説となっています。興味深いのは作者自身が現代文学にとって象徴的な意味を持つこの年に生まれ、またこれまでに己の内面と向き合い得てきた洞察や、自身が影響を受けた海外文学から哲学に至るまで広範な知識を有していることが分かります。小説の”私”の内省が実に鋭く描かれ、これは小説であることを忘れるほど見事でした。2021/02/24
yyrn
26
「それって映画の原作本?」と妻に尋ねられ、「エッ、この映画があるの?」と逆に聞き返すと、韓国の『82年生まれ、キム・ジョン』との勘違いだと分かったが、本書が映画化されたら凄いだろうな。中国の現代史を検閲にかからないように作ることができるだろうか?たぶんムリだな。▼文革の理不尽さや悲惨さを体現した父母の時代から物語は始まるが、経済開放元年と言われた84年に生まれた主人公の娘の世代になると、政権批判を許さない不自由さはあるものの、その感情の発露は現代の日本人と大差がなく、同級生や友人知人たちとの会話はまるで⇒2021/05/10
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