内容説明
【推薦!】
77発の銃弾が9人を殺戮。戦慄の果てに希望は見えるか。
――保坂展人氏(『相模原事件とヘイトクライム』著者、世田谷区長)
家族を殺した男をあなたは赦せますか?
――高橋ユキ氏(『つけびの村』著者)
2015年6月17日、アメリカ南部・チャールストンの由緒ある教会で事件は起きた。
「チャールストン教会銃乱射事件」である。
その日の夜、男は、毎週水曜日恒例の聖書勉強会に参加していた黒人信徒に向け銃を乱射。参加者12人のうち9人が死亡した。
――それはインターネットで仕入れた差別思想に影響を受けての凶行だった。
だが、事件後早々、生存者と遺族は犯人に対し「あなたを赦します」と発言。
全米を震撼させた理不尽な動機による大量殺人事件は、この発言によってさらに注目を集めることになった。
克明にあぶり出される事件の一部始終、
耳を疑うほどの犯行動機の論理破綻、
ネットをきっかけにヘイトスクラム(憎悪犯罪)が生まれる過程、
そして、残された人々の尽きせぬ悲しみの軌跡……。
――ピュリッツァー賞を受賞した地元紙の記者が生々しく描き出した、第一級のノンフィクション。
【目次】
プロローグ
第一部 邪悪な存在と目が合った
第二部 癒しを求めて
第三部 真相が明るみに出る
エピローグ
弔辞――クレメンタ・ピンクニー師に宛てたアメリカ合衆国大統領による追悼演説
謝辞
訳者あとがき
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
54
心が磨り減らされるような感覚。こうしたヘイトクライムがアメリカで頻発していることは日本でも周知の事実だが、ここまで詳細を追って書かれたものを読むと衝撃を受けざるを得ない。過激なレイシストを育む土壌、事件後の教会による遺族への対処、生存者としての信仰との向き合い方、そして多層的な「赦し」の意義。銃乱射事件の影響と余波がどのようなものであるか、一つのケースを示した書でありながら、現在も続くBLM運動や暴動の"前日譚""伏線"としても読める。組織の傲慢さと銃撃事件が起こるスパンの短さには絶句した。2020/08/08
くくのみ
16
2015年、エマニュエル教会で起こった黒人を狙った銃撃事件。9人が犠牲になり、3人が生き残った。保釈審問のとき、遺族は犯人に「赦す」と言った。そこに葛藤や躊躇いはなく、神に導かれるように、その言葉を口にした。しかし、遺族が求めたのは犯人の死刑であり、私が思っていた罪に問わないというものではなかった。では、赦すというのは何を言うのか?失われたものは帰ってこない。以前とは違う日常に戻っていくことが癒しになるのだと思った。赦すとは、事件に囚われ続けないで、大切な自分の生活に戻っていく最初の一歩になるのだろう。2021/08/30
にしがき
15
👍👍👍 2015年の黒人教会での銃乱射事件の発生から裁判終了までのノンフィクション。犯人は21歳の白人至上主義者。犠牲者は9人の黒人。事件後すぐに捕まった犯人の面前で、遺族や生存者が犯人を赦すと発言してニュースになった。自分も覚えている。本書は、この赦しをテーマとするが、簡単ではない。犯人を赦すと言った遺族でも家族内の諍いは激しくなり、遺族と教会の亀裂も生まれてくる。また、犯人を赦すというのも、「黒人はどんな悲しみも感じよく受け入れて耐えるもの」というプランテーション時代と同じだという指摘も鋭い。2021/07/27
uniemo
11
国内において人種による差別を身近で感じたことがないのでヘイトクライムを理解することが難しかったのですが、詳細に語られている本作によって少し理解に近づいたかもしれません。ただ私自身が確固とした宗教心も持っていないのでこのような状況下で「赦す」という行為に至ることの真の理解も難しいと感じました。2020/09/26
ちぃ。
2
2015年、チャールストンの黒人教会で9人の犠牲者を出した銃乱射事件。犯人の保釈審問で遺族たちは言う。犯人を「赦す」と。なぜ事件は起き、人々に何が起こっていたのか。その記録。しっかり読みたくて読むのが遅くなったけどやっぱり読んで良かった。正直ずっと関心があったわけではなく段々と関心が出てきたことなので知らなかったことが多く、もっと知りたい。人種差別、歴史、信仰、政治いろいろなものが絡み合う。インターネットで不確かな情報が上位に来てしまう、間違った情報にアクセスしやすいことの危うさも感じた。文字数たりない。2020/09/21