内容説明
幕末から明治にかけての日本人には「耳障り」だったクラシック音楽は、「軍事制度」の一環として社会に浸透し、ドイツ教養主義の風潮とともに「文化」として根付いていった。そして日本は、ベートーヴェンが「楽聖」となり、世界のどこよりも「第九」が演奏される国となっていく――。明治・大正のクラシック音楽受容の進展を描きながら、西欧文明と出会った日本の「文化的変容」を描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
旅するランナー
229
明治・大正の日本にクラシック音楽がどう浸透したのかがよく分かります。「西欧音楽といのは礼儀をわきまえないでけしからん! あの立って棒を振り回している男は、客に尻を向けて平気でいるじゃないか」と客が怒り出すところから始まるわけです。日本最初の西欧音楽教育を受けた第一期生は全て女性であり、そのひとりである幸田延(文豪幸田露伴の妹)が留学後、東京音楽大学教授となって滝廉太郎・三浦環らを門下生として輩出した話や、君が代がドイツ人エッケルトにより選曲・編曲されたことなど、興味深く読むことができました。2021/05/08
むーちゃん
120
もっと音楽的なことが書いてあるかと思いきや、幕末から現代までの歴史書でした。 明治政府がドイツを模範にしたことが、ベートーベンの神格化に大きく寄与したことは、間違いないですね。 2021/02/02
trazom
83
ベートーヴェンのみならず西洋音楽を、日本人がどのようにして受容してきたかを辿る労作である。伊沢修二による「教育としての音楽」から「芸術のための芸術」への大きな方向転換、そんな中で翻弄された幸田延や久野久、「大正デモクラシー」と「教養主義」の中で作り上げられた「理想主義的ベートーヴェン像」、年末の恒例行事に定着する「第九」の歴史など、史料を踏まえた丁寧な分析に敬意を表したい。近衛秀麿が、交響曲のスコアを九州帝大まで出かけて自ら筆写する情景など、臨場感の溢れるエピソード満載で、とても勉強になるいい本だと思う。2020/12/26
Isamash
27
文筆家・文化芸術プロデューサー浦久俊彦2020年著作。個人的には好みでは無いが、年末の第九交響曲は風物詩となっている。そのベートーヴェンが日本で楽聖とされた起源を探った書。徹底的な調査に基づき労作とは思った。明治維新後のクラシック音楽の受け入れ史も書かれていた。当初は軍隊の行進のための必要性から。その後外人教師の影響下で芸術として。結論的には、明治でも大正時代でもなく関東大震災や第二次大戦の苦難の中で彼の音楽が特別の存在になったと。音楽そのものよりも、彼の難聴等を困難を克服する物語性が日本人に受けたとも。2024/02/10
メタボン
26
☆☆☆★ 膨大な文献から、日本にクラシック音楽特にベートーヴェンが普及していく歴史をひもといた良書。やはり年末には第九が似合う。2024/02/19