内容説明
すべてを変えた戦争の全体像
500万人が犠牲になったナポレオン戦争は、軍事的天才ナポレオンに焦点を当てて、これまで革命対旧体制という図式で描かれるのが普通だった。
一方では、革命理念の伝道と対抗勢力のナショナリズムの覚醒というイデオロギー的観点、他方では、ナポレオンの神がかり的な作戦能力に着目した軍事史的な観点が基調で、なぜこの戦争がかくも膨大な犠牲を出しつつも、収束しなかったのかという根本的な問題については、等閑に付されていた。
本書では、ナポレオン戦争を、先行するフランス革命戦争と統一的に把握するという視点を打ち出し(両戦争を「フランス戦争」と呼ぶ)、18世紀というより長期のスパンで戦争の意味について考える。こうした視座は、ナポレオンの呪縛からこの戦争を解き放つことを意味する。
また、最新の知見を動員して、この戦争が初めての「世界大戦」であり、「総力戦」であったことを明らかにする。苛烈な戦闘は、いつしか敵と味方という観念を溶解させ、犠牲者の国籍も、兵士なのか民間人なのかもはっきりしない、戦争の無差別的な性格が眼前に立ち現れる。現代の起原としてのナポレオン戦争へ。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
skunk_c
50
読友のレビューから。仕事でドンピシャのタイミング。前半の概略史はコンパクトながら前後やヨーロッパ以外の地域にも目配せが効いており、とても参考になった。興味深いのはむしろ後半で、当時の徴兵のやり方、軍隊での懲罰など、へぇと思う内容がいくつもあった。元々入門書である上訳文もこなれており、読みやすかったが、この内容なら新書で出せなかったのだろうか。ナポレオン戦争の戦死者500万人!驚くべき数字だが、その半分以上が病死とは!20世紀の大戦も同様だが、戦争を「勇ましい」と思う向きの方はこの現実を噛みしめて欲しい。2020/10/15
サアベドラ
31
フランス革命戦争~ナポレオン戦争(1792年~1815年)のコンパクトな入門書。邦題からはわからないが原書は Oxford A very Short Introduction シリーズの一冊。著書はイギリスの歴史学者。戦術だの戦略だのに特化したいわゆるミリオタ向けの本ではなく、戦争を取り巻く国際情勢や兵士や民間人の視点などにも紙幅を割いており、最近の軍事史学のトレンドが反映されている。小著ではあるが、ナポレオン戦争を扱ったちゃんとした歴史書は日本ではまだ数が少ないようなので貴重な一冊と言える。2020/09/29
yyrn
30
23年間も凄惨な殺戮が繰り返されたら、私は平常心をもって生きていられるだろうか。1792年から1815年までのフランスが引き起こした内戦=フランス革命から広がった近隣諸国を巻き込んだ戦争は、軍事の天才ナポレオンの登場で世界大戦といえるほどの規模に拡大し(ヨーロッパ全土ばかりでなく、ロシアや中東、南北アメリカやアフリカ、インドまで)700万人の死者を出したという。徴兵を強要し、兵士の数で相手を圧倒した戦術は必然的に死者を増やし、殺戮に次ぐ殺戮の話に読みながら気分が悪くなった。⇒ 2020/12/04
Isamash
28
マイク・ラポート・グラスゴー大学准教授の2013年著作の訳本。1792〜1802年のフランス革命時の戦争と1803〜1815年ナポレオンによる戦争を一連一体のものとしている。南米をも巻き込んだ世界戦で、欧州初の総力戦でもあったらしい。仏軍には階級に因らない能力主義が長所としてあったとも。欧州の戦争は綺麗なイメージがあったが、実際は略奪や強姦等も普通にあったらしい。またナポレオンには電撃的進行のイメージがあったが、補給線が無く現場調達主義の反映とも。膨大な死亡者が有ったが、その原因には感染症蔓延もあった様。2022/03/05
六点
16
フランス革命の極端な賛美から離れた、「修正派」によるナポレオン戦争史。布陣図が一切出てこない「新しい軍事史」の著作である。アンシャン・レジームの遺産を十全に利用したフランスとナポレオンの齎した衝撃は、世界大戦そのものと言うしか無いインパクトを与えていたのだなあ、と、思う。ナポレオン以後で、欧州はそれまでとは決定的に違う社会になったのだ。社会と軍事の関係を考える上で、基本となるべき本であると思う。しかし、フランスはこれだけの人口に対する、巨大な戦死者の不在を埋め合わすことはできたのだろうかね。2020/10/12
-
- 電子書籍
- ダンダダン 16 ジャンプコミックスD…
-
- 電子書籍
- 罪深い真実【分冊】 5巻 ハーレクイン…
-
- 電子書籍
- 新型コロナで変わる時代の実験自動化・遠…
-
- 電子書籍
- 学研の日本文学 萩原朔太郎 月に吠える
-
- 電子書籍
- スポーツする身体とジェンダー