内容説明
過剰共感能力者とは、他人の感情に共感しすぎてしまう特異な体質のために、社会生活に支障をきたしてしまう人々。生きづらさを抱える彼らの共感能力を生かし、本来はその持ち主にしか理解できない記憶を第三者にも分かるようにする“記憶翻訳”の技術を開発したのが九龍という企業だった。珊瑚はその中でもトップクラスの実力を持つ記憶翻訳者だ。依頼人の記憶に寄り添い、その人生を追体験するうち、珊瑚は幼い頃に失った自身の一部について思いを馳せるようになる──第5回創元SF短編賞受賞作「風牙」を収録。心を揺さぶる連作短編集。/【収録作)風牙/閉鎖回廊/いつか光になる/嵐の夜に/あとがき/解説=長谷敏司※本書は、『風牙』(2018年10月刊行)を再編集・改題し、書下ろし2編を加えたものです。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
papako
69
久々のSF。他人の感情や経験が自分のものとごっちゃになる過剰共感能力。その能力を使って人の記憶を他人にも分かるようにする記憶翻訳者。設定がすんなり飲み込めなくて、なかなか入り込めなかった。人の記憶や感情が分かるとどうなるんだろう。それでも所詮人ごとって思うのか、もしくは分かり合えるのか。14歳まで人と自分がごちゃごちゃだった珊瑚、非道い事件の被害者のハル。2人の出会いと記憶のやりとりから楽しくなった。でも、あんまりはまらなかったのは残念。そして珊瑚の関西弁は誰の影響なんだろ。2021/05/08
坂城 弥生
44
初めてのSF作品でした。気負いまつわる近未来のIFの物語。2021/08/31
Shun
33
他者の記憶や意識にダイブする系のSF連作集。創元SF短編賞受賞の「風牙」と続く「閉鎖回廊」までの話は記憶や意識というSF的なテーマがミステリとしても合っていて、そして他者の意識にダイブしその世界を外部に再構築するというアイデアにもすんなり入っていけました。またそれを得意する主人公・珊瑚という女性は人よりも過剰な共感能力を持ち、それを外部装置によって制御しなければならない。そんな不安定さを抱える彼女が他者の意識にダイブすることではぐれ落ちてしまった魂を掬い取るように救う、そんな温かなストーリーがありました。2020/10/25
なっぱaaua
29
「風牙」「閉鎖回廊」は2018年に刊行された短篇集にて既読。新たに書き下ろし短編2編を追加して文庫化したものです。主人公:珊瑚は記憶翻訳者。過剰共感能力者:ハイ・センシティブ・パーソナリティでもある珊瑚は共感ジャマーを使用する事によって障がいのある身から優秀な記憶翻訳者になり課題を解決していくという話。とても読み易くなっていました。今迄門田氏の作品は「風牙」「追憶の杜」と読んできて珊瑚のキャラクターが好きだったのですが、今回追加された2話のハルとのエピソードから、益々魅力的に思えてきました。~続く~2020/11/05
シキモリ
26
個人の主観の集合体である記憶を第三者向けにコンバートする<記憶翻訳者>の珊瑚と共に巡る魂と再生の物語。序盤は独自の設定を読み解くのに苦戦したが、収録作の「風牙」と「閉鎖回廊」で思わず涙腺が緩む。両者共に良質のSFヒューマンドラマだが、後者はミステリー仕立ての構成も実に秀逸。サブタイ作品の「いつか光になる」は文庫版書き下ろしで、前述の二作品とは趣向が異なる。ゲストキャラのハルが抱える壮絶なバックグラウンドの割にストーリーが大人しめだが、このエピソードが次巻への橋渡し役を果たすのだろう。分冊版下巻にも期待大。2021/01/06
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