内容説明
血で骨を洗う斎藤道三「父子の相克」一代記。
古く蝮を「くちばみ」と呼んだ。鋭い毒牙を持つその長虫は、親の腹を食い破って生まれてくるという――。
時は戦国、下剋上の世。「美濃の蝮」と畏れられた乱世の巨魁・斎藤道三は、京の荒ら屋で生を受けるも、母に見捨てられ、油を舐めて命を繋いでいた。油売りを生業にどん底から這い上がった父子は、いつしか国盗りという途轍もない野望を抱くようになる。狙うは天下の要・美濃国。父に続き美濃入りした道三は、守護・土岐頼芸を籠絡し、側室・深芳野と密かに心を通わせる。一方で、父の歪んだ支配欲に苛立ち、血の呪縛から逃れようと毒殺を夢想するようになる。政敵を次々に抹殺し、遂に主君頼芸を追放し、名実ともに国主となった道三。ところがその頃、長男義龍の胸中には、父への嫉妬と憎悪が渦巻いていた・・・。
本作品は、下剋上を成し遂げながらも実子に殺される道三の生涯を、三代にわたる「父子の相克」をテーマに活写する新感覚時代小説。「暴力と情愛」の筆運びはますます磨かれ、「悪の爽快感」に溢れる物語世界は圧巻! まさに花村時代小説の到達点と言える作品です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
191
11月の第一作は、花村 萬月の最新作です。花村 萬月は、ほとんどの作品を読んでいる作家です。『くちばみ』とは何かとおもっていたら、蝮(マムシ)の古名、斎藤道三の物語でした。著者の描く斎藤道三は、美形で精力絶倫(何と子供16人)、従来のイメージと違います。これが史実だとすると「麒麟がくる」の本木雅弘の斎藤道三は正しいことになります。著者は大病をしたせいか、本書はオーソドックスに纏まった気がします。https://www.shogakukan.co.jp/books/09386589 【読メエロ部】2020/11/01
いつでも母さん
165
良くも悪くも花村萬月の『斎藤道三』だった。道三父子の相克・・上下二段の本作。食傷気味に感じるのも花村萬月故に。読了に時間が掛かり花村作品から暫し離れたい感じ(汗)闘病生活を送りながらの執筆だったとは・・流石です。2020/11/08
あさひ@WAKABA NO MIDORI TO...
129
道三ものはいくつか読んできたが、ここでは色と美貌の、しかもちょっと渇いた道三を楽しめた。麒麟のモックン道三は、たまに舌なめずりする程度のもともとクリーンなイメージなのに対して、本作ではまさにくちばみ(まむし)のダークなイメージとともに、戦国の世をなんとかして生き抜くために垣間見える親子愛を堪能することができた。花村作品は、ちょっと前にデビュー作の『ゴッド・ブレイス物語』を読んでこれがまだ二作目。好き嫌いはありそうだけど、自分としては放っておけない作家かも。2021/01/21
背古巣
42
読友さんのレビューで知ったこの作品。花村萬月さんは"ブルース"や"笑う山崎"など,バイオレンス小説専門と思っていたら、こういうのも書かれるんですね。読了まで時間がかかりましたが、これは家庭の事情で読書時間があまりとれなかったのが原因。面白かったです。最後に義龍が道三の真意に気付くところが悲しい。道三も別なやりようがあったのではとも思う。フィクションではあるのですが、なんか、歴史のひとこまを見たような気になりました。道三の子供時代が特に面白かったです(^o^)。2020/12/04
イトノコ
27
キンドル。極貧の武士の子として生まれた峯丸。幼くして母に棄てられた彼は、その妖しいまでの美相と絶倫の精力により長じて美濃一国を切り取る斎藤道三となる。/松永久秀を描いた「弾正星」も良かったが、こちらも良作。峯丸の幼少期を描いた前半はいささか冗長だが、重要なテーマである親子の葛藤の伏線となっている。道三が美濃に入った後半は一気読み。花村さんらしいエログロ満載なれど、道三と息子義龍の愛憎は実に切ない。殆どその胸中を語ることのなかった道三の、今際の際の独白ー親子という枷にもがき続きた男の物語だった。2020/12/11