講談社選書メチエ<br> 快楽としての動物保護 『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ

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講談社選書メチエ
快楽としての動物保護 『シートン動物記』から『ザ・コーヴ』へ

  • 著者名:信岡朝子【著】
  • 価格 ¥2,365(本体¥2,150)
  • 講談社(2020/10発売)
  • 夏休みの締めくくり!Kinoppy 電子書籍・電子洋書 全点ポイント30倍キャンペーン(~8/24)
  • ポイント 630pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784065212592

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内容説明

ペットと家族同然に暮らしている人はもちろん、テレビやネットで目にする動物の映像を見てかわいらしく感じたり、絶滅が危惧される動物や虐待される動物がいることを知って胸を痛めたりする私たちは、動物を保護するのはよいことだと信じて疑いません。しかし、それはそんなに単純なことでしょうか――本書は、このシンプルな疑問から出発します。
子供の頃、挿絵が入った『シートン動物記』をワクワクしながらめくった記憶をもっている人でも、作者のアーネスト・T・シートン(1860-1946年)がどんな人なのかを知らない場合が多いでしょう。イギリスで生まれ、アメリカに移住してベストセラー作家となったシートンは、アメリカではやがて時代遅れとされ、「非科学的」という烙印を捺されることになります。そうして忘れられたシートンの著作は、しかし昭和10年代の日本で広く読まれるようになり、今日に至るまで多くの子供が手にする「良書」の地位を確立しました。その背景には、シートンを積極的に紹介した平岩米吉(1897-1986年)という存在があります。
こうして育まれた日本人の動物観は、20世紀も末を迎えた1996年、テレビの人気番組の取材で訪れていたロシアのカムチャツカ半島南部にあるクリル湖畔でヒグマに襲われて死去した星野道夫(1952-96年)を通して鮮明に浮かび上がります。この異端の写真家は、アラスカの狩猟先住民に魅了され、現地で暮らす中で、西洋的でも非西洋的でもない自然観や動物観を身につけました。それは日本人にも内在している「都市」の感性が動物観にも影を落としていることを明らかにします。
本書は、これらの考察を踏まえ、2009年に公開され、世界中で賛否両論を引き起こした映画『ザ・コーヴ』について考えます。和歌山県太地町で行われてきた伝統的なイルカ漁を告発するこのドキュメンタリーは、イルカを高度な知性をもつ生き物として特権視する運動と深く関わるものです。その源に立つ科学者ジョン・カニンガム・リリィ(1915-2001年)の変遷をたどるとき、この映画には異文化衝突だけでなく、近代の「動物保護」には進歩主義的な世界観や、さらには西洋的な人種階層のイデオロギーが反映されていることが明らかになります。
本書は、動物を大切にするというふるまいが、実は多くの事情や意図が絡まり合った歴史を背負っていることを具体的な例を通して示します。一度立ち止まって考えてみるとき、本当の意味で動物を大切にするとはどういうことかが見えてくるでしょう。

[本書の内容]
はじめに
序 論――東西二元論を越えて
第I章 忘れられた作家シートン
第II章 ある写真家の死――写真家・星野道夫の軌跡
第III章 快楽としての動物保護――イルカをめぐる現代的神話
おわりに

目次

はじめに
序 論――東西二元論を越えて
第I章 忘れられた作家シートン
一 『動物記』とアメリカ
二 「人種再生」のビジョン
三 日本科学の精神と『動物記』
四 孤高の人々――平岩とシートンの動物観
第II章 ある写真家の死――写真家・星野道夫の軌跡
一 Michioの死とその周辺
二 原野をめぐる言説
三 星野が見た「アラスカ」
第III章 快楽としての動物保護――イルカをめぐる現代的神話
一 なぜイルカなのか
二 イメージの系譜学
三 人種階層と動物保護
四 宇宙を泳ぐイルカ
五 再び『ザ・コーヴ』へ
おわりに

文献一覧
初出一覧

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

ベル@bell-zou

33
「何のために動物を護らなければならないのか」可愛いから?可哀そうだから?本書を読み終えても、あとがきの著者の問いに答えられない。仮に何かの種が絶滅したとして人間に不都合なことなど恐らくないのだという。では何故。教室の本棚に必ず並んでいたシートン動物記が本国アメリカでは認知度が低いという意外。日本の動物文学の父・平岩米吉の理念にシートンの作品世界が合致した偶然。デジタル処理による芸術としての動物写真の意義。絶滅危惧動物のクローズアップ写真が"減少している"ことを実感出来なくさせるという矛盾。↓(×5)2020/12/30

Sakie

20
そもそも人間の集団がさほど大きくなかった頃までは、民族と動物の間に古来より時間をかけて培った関係は文化や思想として、節度を持った均衡点を持っていた。他者のそれを想像する必要をはじめ、住みついてさえ会得することのできない微細の感覚があることは、前提としたい。思うに、人間は21世紀になってなお、自然のことも動物のことも理解しきれてなどいないのだ。加えて、一義的な「正しさ」を振りかざして、「野蛮」と決めつけた相手を糾弾する行為が快感と知覚される現象は想像に難くない。そしてそれは物事をより良くする結果は生まない。2022/06/08

まえぞう

20
著者の学術論文をベースにしているため、内容はかなり専門的です。読む前はザ・コーヴへの関心が中心でしたが、読んでみるとアラスカを愛した写真家の星野道夫の話が印象的でした。欧米人、特にアングロ・サクソン系の人々の価値観が優先される中での違う価値観との対立ということですが、著者の仰るとおり、様々な価値観を受け入れ、その多様性を護っていくことが重要なんだと思います。2020/11/06

さまい

18
なぜ西洋人は執拗なまでにクジラとイルカを保護したがるのか?がテーマとなっている第三部の「快楽としての動物保護」が刺激的だった。私自身はクジラを食べた経験がなく捕鯨に興味はなかったため、知らないうちにスーパーホエールの信仰にハマってしまっていたことに気づいた。この本を読む限りでは、キリスト教価値観や他バイアスから生まれているのが今日の強烈なクジラ保護のため、捕鯨国と反捕鯨国の協調(妥協?)は難しいだろう2022/04/11

kenitirokikuti

14
図書館にて。社会学的の本かなと思ったら、著者は比較文学・比較文化のひとだった▲第1章のシートンを巡るお話を読んだ。シートン動物記、日本では戦前から児童向け読み物として定番だが、英米ではかなり早くから忘れられた作家である。あっちだと、ジャック・ロンドンに近いのね。19世紀末から20世紀初頭の人種主義やらなんやらを背景に、北米の野生の狼の表象が描かれる。平井和正のヤングウルフガイだぁ…。で、この野生の狼のイメージはクジラやイルカに移ってゆく。平井は女神信仰になってったな(月光やウルフガイDNA!2020/11/30

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