内容説明
角田ワールド全開!「記憶」をめぐる小説集。
<「さがさないで。私はあなたの記憶のなかに消えます」と言って姿を消した妻をさがす旅に出る僕>――(表題作)。<初子さんは扉のような人だった。小学生だった私に、扉の向こうの世界を教えてくれた>――「父とガムと彼女」。<K和田くんは消しゴムのような男の子だった。他人の弱さに共振して自分をすり減らす>――「猫男」。<イワナさんは母の恋人だった。私は、母にふられた彼と遊んであげることにした――「水曜日の恋人」ほか4篇。角田光代の小説世界を存分に味わえる読み応えたっぷりの小説集。
※この作品は単行本版『私はあなたの記憶のなかに』として配信されていた作品の文庫本版です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
581
つい先だって読んだ池澤夏樹氏の角田評に「角田さんは本当に人が好きなんだなぁ。人間の楽しみや苦しみにまつわるあれやこれやが」(ウロ覚え)というのがあったが、まさにそんな感じ。そして彼女の作品を好きなわたしも、原点はそこなのかなぁと。イジメのシーンは読んでいてつらい。こういう構造は、太古の昔から未来永劫変わらんのだろうな、という暗鬱とした気分に。人間描写の秀逸な点を除けばまったく関連のない短編集なので、いちにち一編という読み方が正解。2022/02/16
のり
78
8話からなる短編集。1996〜2008に掲載された作品なので時代背景が異なる。共通は想い出・記憶である。誰にでも忘れ難い人や出来事がある。それは良い事ばかりとは限らない。過去だったり進行形だったり、背負うことすらある。8話通して旨味も苦味も感じさせてくれる。「空のクロール」「地上発、宇宙経由」が特に好みだった。2021/06/28
毎日パン
73
久々に角田光代さんの作品を読みました!「地上発、宇宙経由」が一番よかったです。自分の記憶にある角田さんの作品のイメージとは少し違っていました。こんな感じでしたっけ??どの話も少し不思議な感覚になる話でした。2022/12/20
masa
65
気がつけば何かを得るより失くしていくばかりで、人生が明確に引き算になったのはいつからだろう。生まれたときにはゼロだったはずで、だったら僕はいつピークを迎えたというのだろう。どうやら満足するほども何かを成し遂げないままに、終わっていくようだ。おまけに僕の記憶は曖昧でどんどん思い出せなくなる。お気に入りの一行で一冊を作れそうなくらい沢山の本を読んできたのに、うっかり間違えて前に読んだ本を買ったりする。それなのに君と築き損ねた習慣と信頼は歪な形で僕に染みついて、音や匂いや景色、五感をトリガーに何度でも蘇るんだ。2022/08/13
mayu
63
短編集。表題作がすごく好み。「私はあなたの記憶のなかに」そんな書き置きを残して、姿を消した妻。妻との思い出の場所を訪ねる夫。孤独で、なんだか心許ないけど、そこには悲壮感はない。旅路で出会った女性たちに、少しずつ妻の面影を探している。結局はひとりのままなのかもしれない。だけど、失ったとしても、記憶は決してひとりにはしない。誰かと過ごした大切だと思える記憶があれば、その先も生きていけるものなのかもしれないと思う。このお話のもつ儚さに惹かれる。2023/05/27