内容説明
自由かつ平等な空間を実現する〈信長の専売特許〉政策とされてきた「楽市楽座令」。中世から近世の転換期に何をもたらし、何を残したのか。通史上の新しい位置づけを試みる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
だまし売りNo
34
楽市楽座は既得権益を破壊する。統制経済が主流の日本では珍しい自由主義的な政策である。織田信長のものが有名であるが、楽市楽座は信長の専売特許ではない。もともと織田弾正忠家は牛頭天王社(津島神社)の門前町として繁栄していた津島を支配することで尾張国守護代の家老という立場以上の経済力を得た。そこでは津島の商人の座を保護する立場であった。自由主義ではなく、保護主義である。その後、駿河の今川氏真が永禄九年(一五六六年)に富士大宮楽市令を出した。信長の楽市楽座は、この後である。2022/10/15
六点
16
つい最近まで、いや、現在でも織田信長の創案と信じられている「楽市楽座」を再検討した本である。最近の研究の通り、六角氏が近江の石寺新市に出したものを嚆矢とするのだが、ではその後何故「楽市楽座令」は姿を消したのかということは意外と忘れられている、豊臣秀吉のせいである。が、関東や東海、北陸でも楽市楽座令は出されているがそれはなぜかを解き明かしている。そしてその後の展開も。人口に膾炙し、当たり前と思った事が覆される知的快感を味わうことができた。実証史学の面白さを一般人が味わえる良い読書体験であった。2019/03/25
chang_ume
11
史料にして22例、期間は半世紀ほど。「楽市楽座」は意外にも短期の政策・語句だったことにまず驚く。中世から近世の大画期として楽市楽座令を捉える通説とは異なり、まず「楽市」について、織田信長を含む戦国大名による時期・内容の両面で限定的な都市政策として把握していく。それは地域への平和保障であり、経済振興策であったと。そのうえで「楽座」に関して、通説とは正反対の意味を見いだしていく(破座と区別)。ただ一方で、それでは近世城下町を生んだ社会とはいったい何だったのか。時代変化そのものに対して著者は答えていないような。2019/06/16
アメヲトコ
10
織田信長の革新性の象徴として語られがちであった「楽市楽座」の実像について、信長以前の例から全国の事例を検討し、さらに近世への影響を考察した一冊。信長は言うほど革新者じゃなかったという近年の研究とも通じるものがあり勉強になります。「楽座」の解釈も興味深いところ。惜しむらくは図の乏しさで、城や街道など、場所の文脈が示されているともっと立体的に理解できるように思いました。2020/07/08
MUNEKAZ
10
刺激的な一冊。「楽市楽座=信長」というイメージを廃し、織豊系以外の大名の「楽市」も考察する。大名ごとに様々な目的で出され、恣意的に運用される「楽市」は「自由な商取引」という言葉だけでは説明がつかず、また商人側も「諸役免除」に拘り、それが「楽市」に伴うものかどうかは重視しない。さらに衝撃は「楽座」で、それが役銭の減免を願う座側の申し出であり、「座の特権廃止」とは全く異なるということ。常識が揺さぶられるエッジの立った内容で、大変勉強になりました。2019/03/04