内容説明
「明治三十年代の吉原には江戸浄瑠璃に見るが如き叙事詩的の一面がなお実在していた」。消えゆく遊里の情緒を追い求めた永井荷風の名随筆「里の今昔」。荷風がその「最後の面影」を残すと評した樋口一葉「たけくらべ」、広津柳浪「今戸心中」、泉鏡花「註文帳」の四篇を収録。〈解説〉川本三郎
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
467
【遊廓部・参考図書】吉原に思い入れのあった荷風が、明治時代の流行作家が記した吉原周辺の中編をまとめたアンソロジー。初っ端から『たけくらべ』旧仮名かぁ。遊廓に育った少女と僧侶の子息って、なんだか『五番町夕霧楼』を思い出した。『今戸心中』が比較的読みやすく、花魁の気持ちに寄り添ったものになっていたと思う。イケメンの思いびとを見切れないながらも、好きでもなく通ってくる男の情にほだされて…。実話ベースというからなおのこといい。2025/01/12
ちえ
35
吉原の情緒を愛した荷風の随筆に続き吉原を舞台とした三篇から成る一冊。泉鏡花だけ読み切れず返却となった。『たけくらべ』は何十年ぶりに読んだか。お互いを意識し始めた美登利と信如の初々しさ。吉原とそこで生活する人たちの生き生きとした情景、特に季節季節の様子が目の前に浮かぶ。それにしても生まれや親の職業での区別、友禅の切れ端と水仙、切ない。広津『今戸心中』では吉里の去った男への思い。実話をもとにしているそうだが、花魁として、女としての熱情の強さに圧倒される。2024/11/30
shizuka
28
荷風おじさまの案内でめぐる、吉原の「面影」それこそ、今は昔、実しやかに流れていた情緒は薄れ、浅草観音の裏手もだいぶ様変わりしたのかもしれないが、この本を開くとその息遣いが、艶やかな色が、ありありと目に浮かんでくる。テクノロジーに伸されている近未来も、進化のない人間の根本。男と女が出会って情にほだされ別れていく。小さな営みにも壮大なドラマがあるのがこの地球の掟。感情に溺れ、むき出しにして、そして気づきを得て、至るは涅槃。それまでのプロセスをおおいに、楽しもう。振り返り嘆くのは棺桶に入ってからでも遅くない。2023/03/07
SIGERU
27
心急く年の瀬に、江戸は吉原遊郭の賑わいを偲ぶ。そんな風雅もわるくない。吉原にまつわる、文豪たちの達意の文藻を蒐めた本書は、最適の一冊だ。まず荷風『里の今昔』。往時の遊郭に存した、たおやかな風情を遺漏なく追想してみせる随筆は、さるにても名文。 そして、泉鏡花『註文帳』。雪の一夜の怪異を、墨痕淋漓とも云うべき名調子で描いた、鏡花得意の怪譚だ。遊女お縫の霊が、剃刀研ぎの五助の前に卒然と出現する場面は、あざやかの一言。「『五助さん』。蒼ざめた掌に、毒蛇の鱗の輝くような一挺の剃刀を挟んでいて、『これでしょう』」。2021/12/27
まさ
26
吉原を懐古する永井荷風の随筆と、それに纏わる樋口一葉「たけくらべ」、広津柳浪「今戸心中」、泉鏡花「註文帳」3作。遊里で生きる人、通う人、界隈の風俗描写を「吉原」が大人になるための通過地であることと合わせて3作それぞれ想像した。荷風はその風景が消えかかる中で懐かしみ、その随筆を読む現代ではまた違うものが見えているのだろうけど、人の往来に思いを馳せた。この地を知っているとさらに思いは強くなるのだろう。2021/12/18
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